前嶋和弘(上智大総合グローバル学部教授)

 大阪市で6月末に開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)は、かつてないほどの注目を集めたものの、G20という多国間の国際秩序そのものの形骸化を大きく印象付けた。複数の国家が世界規模の経済や貿易、グローバルイシュー(地球規模の課題)などを話し合う場ではなく、G20という場所には集まるものの、中心となるのが、米中首脳会談、日米首脳会談などの2カ国間交渉であったためだ。

 もちろん、議長国日本としてはデータ管理や海洋プラスチック問題などのさまざまな国際間の共通課題の達成を図っていた。しかし、いかんせん、かつてのように自由貿易体制の堅持といった各国共通の大きな議論にはなっていない。

 その背景にあるのが、トランプ大統領の登場以降の「アメリカの変質」にある。「保護主義に対抗」というかつての先進7カ国(G7)やG20の決まり文句は、トランプ氏の「アメリカ第一主義」に真っ向から対立する。さらに、お決まりの「気候変動対策」も同じだ。

 その米国の態度の変化の向こう側にあるものは、もちろん「壊し屋」的なトランプ氏の手法だろう。ただ、国際関係を見ていくと、やはり中国の台頭がアメリカの変質を促進しているのは言うまでもない。

 つまり、G20という多国間の国際秩序が揺らいだ背景には、米中対立の中で、「やり方を変えないといけない」という米国側の焦りがあったといっても言い過ぎではないだろう。

 過去の米国の対中政策は「ヘッジ(強硬論)」と「エンゲージメント(関与論)」のいずれかを使い分けるというバランスが基本だった。特に、1989年の天安門事件以降は、中国に対する米国の姿勢は非常に厳しかった。

 だが、貿易パートナーとしての中国の存在が大きくなってくる中、基本的には自由貿易の枠組みに入れて「関与」し続ければ、中国の国家資本主義的な体制が減るという見方が米国の中で大きくなっていった。その象徴的なものが2000年に立法化された「対中恒久正常通商関係(PNTR)」法であり、中国に恒常的に最恵国待遇を与えることになった。その結果として、中国の世界貿易機関(WTO)加盟が認められることになる。
2019年6月28日、G20大阪サミットで首脳の特別行事を終え、トランプ米大統領(左)と握手する安倍首相。右は中国の習近平国家主席
2019年6月28日、G20大阪サミットで首脳の特別行事を終え、トランプ米大統領(左)と握手する安倍首相。右は中国の習近平国家主席
 ただ、この見方が「間違い」であるということが、トランプ政権発足前後から米国内ではコンセンサスになっている。中国はWTOの仕組みの中で、中国側が逆に他の国を「自由でない」と主張ができるようになってしまったためである。

 中国の場合、知的財産権も守らない。米国の貿易赤字は増えていく。「中国だけが結果的に得をする」状況に対するいら立ちが極めて大きくなっているわけだ。