宮崎正弘(評論家)
吉川圭一(グローバル・イッシューズ総合研究所代表)

 宮崎 日本のメディアは、アメリカと中国の貿易摩擦を「米中貿易戦争」と報じています。もちろん貿易戦争には間違いないですが、そもそも米中は基本的に長い間衝突の構造にあります。今は単に関税のかけ合いのレベルなので、これはいずれ終わります。お互いにものすごく傷ついていますからね。むしろ決定的なのは、関税をかけたことによって中国の経済構造がガラッと変わったことでしょう。中国で生産できないものはすべてベトナム、カンボジアに移しています。つまり、中国の「産業の空洞化」をもたらす構造変化が起きたということです。これが一番大きい問題です。

 二番目に大きいのは、アメリカが為替操作国として認定すると脅しをかけていますが、逆に今、人民元はものすごく弱いということです。弱い通貨を強くするために、一番稼いできたドルをすべて人民元の買い支えに使っているわけです。こうしたことで、中国の経済力が弱まっています。これはおそらくトランプではなく財務長官あたりのアイデアだと思いますが。

 そして米中対立というのは、貿易戦争の関税かけ合いレベルから、第5世代移動通信システム(5G)のテクノロジー覇権争奪戦に完全に移っているわけです。で、この流れから、私はまもなく金融戦争が始まるだろうという見立てをしています。

 吉川 なるほど。先の20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)でトランプがアメリカのマイクロチップを中国通信機器大手のファーウェイに売っていいよ、中国人のハイテク技術者へのビザ優遇もしますよということは言いましたが、だからといってファーウェイ製品をアメリカが買うわけではないのです。国内の規制を緩めるつもりはないでしょう。

 中国人技術者のビザの件も、アメリカのメディアをこまめに見ていると、アメリカのどのハイテク企業も、理系の大学も、中国人の専門家にビザを申請するときには米連邦捜査局(FBI)がうるさく調べにくるので、できるだけもう取りたくない、という実際の現場の温度感が分かります。

 宮崎先生がおっしゃっているようなアイデアで中国を徐々に弱めつつ、5Gの問題ではアメリカが中国に先んじるよういろいろな手を打っていくのではないでしょうか。
米中新冷戦について対談する宮崎正弘氏(右)と吉川圭一氏=2019年7月、東京都千代田区(撮影)
米中新冷戦について対談する宮崎正弘氏(右)と吉川圭一氏=2019年7月、東京都千代田区(三尾郁恵撮影)
 宮崎 中国はすでに相当先んじていますからね。いろんな側面から考えられますが、まずは特許の問題でしょう。4Gのときはことごくアメリカが特許を押さえていて、ファーウェイでさえOS(基本ソフト)は「アンドロイド」です。それをひっくり返すのはファーウェイもできない。

 もう一つできないことは、半導体を中国が作ること。今の時点で半導体を20%作ったなんて豪語していますが、それはどの程度の半導体か分からない。さらにアメリカは「半導体製造設備は売らない」と言っている。これが決定的で、中国は半導体を作れないということなのです。

 アメリカがここまで焦っているのは、将来のマーケットの取り合い程度ではないということ。例えば、米国の最新鋭ステルス戦闘機「F35」の部品は中国製が相当入ってきていましたが、それによってF35の性能が落ちる、ということが起こっているわけです。逆に中国はミサイルの性能が上がっています。コンピューターの精度やドローン技術、航空産業、宇宙産業の技術、すべてアメリカから盗んだものによって成り立っている。アメリカはうかうかしていたら、圧倒的な軍事的優位という立場が脅かされると、アメリカ人の心底に恐怖感がある。だからあんな強い態度で臨んでいるわけで、ちょっとやそっとではこの対立は終わりません。中国が白旗を上げるか、共産党がつぶれるまで続くか、そこまでは分かりませんが。もし、トランプが次の選挙で敗れることになれば、また別の展開になるかもしれません。