吉川 トランプは大統領選挙、特に予備選挙の最中からそういうことを言っていました。今回トランプから日米安保の見直し論が出てきたのは、イランのことがあるからだと思います。

 イランがアメリカの無人機を攻撃したので、それに対する報復攻撃をやろうとしたが、直前で思いとどまった。そのときに、日本は消費する石油の6~7割をペルシャ湾から買っているにもかかわらず、日本がペルシャ湾の防衛をやらないのはおかしいのではないかとツイッターでつぶやいて、G20後の記者会見でもそのことは言っていました。こういう一連の流れからすると、トランプは本気なのではないかと私は思いますね。

 宮崎 本気であることが分かる一方で、トランプは日本に関する勉強をほとんどしてないから、理解度は低いですね。北朝鮮危機のときも、日本に協力しろ、と言ったら日米安保条約、日米地位協定、それから日本の憲法があってできないということを初めて知ったようで、本当にびっくりしたという話もあった。日本は戦争に巻き込まれるようなものではなく、後方支援や終わった後の地雷処理とか、そういう協力しかできないことを今はだんだん分かってきたのではないでしょうか。

 だから次にその不満をどこにぶつけるかというと、結局日本の障害になっている憲法だと。だから、憲法改正を迫るのは内政干渉になるけれども、形を変えて言ってくるのではないかと思いますね。

 吉川 「在日米軍基地駐留経費の日本側負担を何倍かに値上げしろ!」などですね。それくらい言われたらさすがの日本人も、そんなお金を払うなら憲法を改正して強力な自前の軍隊を持った方がよいと目覚めるかもしれません。米国製の兵器と今まで引き取ってきた米国債を交換してもよい。その代わりに、むしろ在日米軍基地駐留経費を今までは7割負担していたのを5割にしてくれと交渉する。最初から5割と言えば6割にされてしまうので、3割と言っておいて5割で手を打つ。それくらいのことを日本がしてもよいと思います。

 そうなれば、在日米軍基地の見直し問題も出てきます。マティス国防長官が退任後、しばらく国防省のトップが不在でしたが、今年6月にボーイング社の理系重役だったシャナハン国防長官代行が国防長官への指名を断ったのです。彼はボルトン大統領補佐官に影響されてイランとの早期開戦論者だった部分があるので、イランとの流血の大惨事を少なくとも来年の選挙まではしたくないというトランプの意向が、もしかしたら少しあったのかもしれない。そしてポンペオ国務長官の陸軍士官学校時代からの友人で、マティスと同様に元制服軍人だからこそ部下を戦死させるようなことは避けたいエスパーが国防長官に就任しました。

 ただ、本当に日米安保を見直すということになった場合、「この基地とこの基地は日本の領土上になくてよい」などとコンピューターで計算して交渉をするなら、シャナハンが最適だったと思います。エスパーのような制服軍人はどちらかというと、日本の軍事基地は守りたい方が多いのです。

 日米安保を大きく見直す、日本側も憲法を大きく見直さざるを得ないという話が出てくるとしたら、エスパーから民間出身の人に再び国防長官が代わったときではないか、と今の段階では思っています。
米ホワイトハウスで、エスパー国防長官(左)を見やるトランプ大統領=2019年7月(AP=共同
米ホワイトハウスで、エスパー国防長官(左)を見やるトランプ大統領=2019年7月(AP=共同)
 宮崎 いずれにしても、すべてまた劇的に変わり始めるのは選挙の後でしょう。その前に中国の自滅が金融面で始まると思いますがね。

 吉川 それと中国国内の知的財産権保護と産業補助金制度撤廃という米国の主張が関税などの圧力で実現するか?そうすれば5Gでもアメリカが中国に巻き返しできるかもしれない。

 これは、われわれ日本人には既視感があります。80年代に日本がアメリカにされたこととよく似ています。あのときは、そういう日本国内の構造改革そしてドル安誘導や国際決済銀行の規制がバブル崩壊へと繋がりました。そういう意味でも宮崎先生の考えは間違っていないと思います。

 みやざき・まさひろ 昭和21年、金沢市生まれ。早稲田大中退。「日本学生新聞」編集長、雑誌『浪曼』企画室長を経て、貿易会社を経営。58年『もうひとつの資源戦争』(講談社)で論壇へ。著書に『拉致』(徳間文庫)『中国大分裂』(文藝春秋)『出身地で分かる中国人』(PHP新書)『中国権力闘争 共産党三大派閥のいま』(文芸社)など多数。

 よしかわ・けいいち 政策コンサルティング事務所「グローバル・イッシューズ総合研究所」代表。2016年まで米国ワシントンDCにも拠点を持ち、 東日本大震災を契機に一般社団法人日本安全保障・危機管理学会防災(JSSC)ワシントン事務所長として、日本に米国と同様の危機管理専門省庁の立ち上げを目指す政策提言活動に取り組む。2017年以降は日本国内をベースに、テロ対策や米国政治に関する政策提言活動を続ける。著書に『911から311へ—日本版国土安全保障省設立の提言』『東京オリンピック・パラリンピックは、テロ対策のレガシーになるか?』(近代消防新書)など多数。

■「米国はもう崖っぷち」5G戦争、ファーウェイ排除のウラ側
■「宇宙軍創設」トランプの真意は中国への宣戦布告に他ならない
■日本の円圏構想をパクった中国の「一帯一路」はどうせ失敗する