杉江義浩(ジャーナリスト、放送プロデューサー)

 先の参院選で全国比例区から立候補していた「NHKから国民を守る党」(以下N国)の立花孝志氏が当選し、N国は国政において初の1議席を確保しました。また、選挙区では政党要件の2%を上回る3・2%を得票したことにより、N国は政党助成金を受け取る政党と認められました。

 このニュースを知ったとき、私は「冗談もいい加減にしてくれ」という気持ちになりました。そしてこれが冗談ではないと知ったとき、膝から崩れ落ちそうになる脱力感に見舞われ、日本の大衆の投票行動に対して暗澹(あんたん)たる絶望感を持つことになりました。

 もちろん1票は1票です。投票に貴賤はありません。どんな形であれ、国民から信任を得て選ばれた人物を批判するのは、民主主義としてフェアじゃないことぐらい私も理解していますが、あえて言わせてください。立花氏は明らかにNHKに対する私怨と私憤にまみれただけのいわゆる「泡沫候補」です。そんな彼に投票した有権者に疑問を抱かざるを得ません。

 N国の政見放送を見た人もいるかと思いますが、ひたすら「NHKをぶっ壊す!」と連呼し、NHK内部の不倫や不祥事をあげつらうだけ。まるでマンガみたいでした。立花氏はユーチューバーとしても有名ですが、NHKの受信料を拒否すべきだ、スクランブル(契約者だけが視聴できる)放送にすべきだ、という主張以外に何一つ日本の政策について語っていません。

 国会議員を目指すのなら日本の国のあり方について、税制・財政、外交・安全保障、福祉・教育など何かしら政策を持ち、その考えを国民に問いかけるべきです。そしてその政策に基づいて議員になった曉(あかつき)には、考えを実行に移すべきです。それが保守であろうがリベラルであろうが、政治家としての当然の要件だと私は思っています。

 N国は政党要件を満たしたかもしれませんが、立花氏は政治家として最低限の要件を満たしていない、そもそも政治家になる資格のない人物だと言わざるを得ないでしょう。自民党に対しては「NHKをスクランブル放送にしてくれるのなら、憲法改正に賛成する」と持ちかけているようですが、この人物にとっては憲法よりも受信料問題の方が重要だということになります。まったくあきれ返ります。
比例代表で当選が決まり、支援者と喜ぶ立花孝志代表(中央)=2019年7月、東京・赤坂
比例代表で当選が決まり、支援者と喜ぶ立花孝志代表(中央)=2019年7月、東京・赤坂
 ユーチューバーとしての立花氏の言動は、彼がNHKを内部告発して退職し、受信料不払い運動家として一人で情報発信を始めたころから知っています。頑(かたく)なまでのNHK批判と受信料不払い運動の徹底ぶりには、エキセントリックな狂気を感じ、私はふざけ半分で時々見ていました。私には彼が自分の辞めた組織に対して、別れた女房に対する逆恨みの感情を抱いているような、奇妙な印象をもたらしました。

 一時期は「日本文化チャンネル桜」のネット放送に出演し、チャンネル桜の反韓・反中の思想に基づく受信料不払い訴訟に足並みを揃えているかのように見えたときもありました。この人物はアングラ右翼系なのかな、と私は思いましたが、やがて訴訟が失敗に終わると、立花氏はチャンネル桜の反韓・反中の活動には興味を示さなくなりました。彼にとっての興味の対象は、あくまで組織としてのNHKに対する復讐であり、受信料問題のみに集中していくのです。