若林亜紀(ジャーナリスト)

 私が「NHKから国民を守る党」の党首で参院議員の立花孝志氏に初めて会ったのは、14年前の2005年、氏がまだNHKの現役職員だった頃だ。

 当時、NHKは『冬のソナタ』や『プロジェクトX』のヒットに沸く一方、不正経理や政治家による番組制作への介入疑惑など、スキャンダルが続出していた。そのため、視聴者の間に「NHK受信料不払い運動」が起きた。

 ピーク時には、不払い世帯は115万件を超えた。2004年末に当時の海老沢勝二会長が辞任し、NHKが不払いに対して裁判を起こすなど厳しい措置をすることで、不払いは減っていった。

 私もNHKの金満体質や職員厚遇について毎週のように記事を書いており、週刊誌の編集者から立花氏を紹介された。

 「NHKの現役職員です。これが証拠です」

 氏は、チェーンがついたNHKの職員証を出して自己紹介をした。「経理畑が長く、不正経理をやらされてうつ病になった。休職して治ったので告発したい」という。関西人らしくぺらぺらよくしゃべるが、痛々しくも見えた。

 事前に、編集者から「氏はうつ病で精神的に不安定だから気をつけて対応しよう」という注意も受けていた。実際、氏と話して気分を害した編集者もいる。

 氏の自宅にも呼ばれた。当時、単身で東京の一間か二間のアパートに身を寄せていた。がらんとした部屋に当時の奥さんが心配そうに見守る中、二人でこんな会話をした。

 ―妻子があるなら生活を考え、在職のまま匿名の告発をした方がいいと思いますよ。

 「いや、内部告発してNHKを辞め、ジャーナリストになります」

 ―でも、立花さんは直接報道の仕事に携わっていたのでなく、経理のご出身でしょう。そんな簡単にいきますか。

 「現場経理として報道を支えてきました。私も番組を作ってきたジャーナリストです」

 結局、氏は私とは関係なく、週刊文春で「NHK現役経理職員、立花孝志氏懺悔実名告白、私が手を染めた裏金作りを全てお話しします」という衝撃的な題で実名の内部告発を果たした。その後NHKから懲戒処分を受け依願退職した。

 その後も氏と数回会って食事をしたりした。内部告発を終えてほっとしたのか、どんどん色気と魅力を増していったと感じた。
 
 とりあえずパチプロとして生活すると言い、週刊誌にパチンコ指南の連載を持った。 
 
 やがてユーチューブにパチンコ必勝法の動画をアップロードし、「立花孝志ひとり放送局」と名乗るようになった。また、NHKが受信料不払い者に対して訴訟を起こしていることに目を向け、NHKだけ受信しない装置「イラネッチケー」や、NHKの勧誘や集金の追い返し法を説く動画もアップロードした。

 そして、氏は人気ユーチューバーとなり、2018年のユーチューブでの広告料収入が1248万円になったという。
比例代表で当選が決まり、笑顔でポーズをとる政治団体「NHKから国民を守る党」の立花孝志代表=2019年7月25日、東京・赤坂
比例代表で当選が決まり、笑顔でポーズをとる政治団体「NHKから国民を守る党」の立花孝志代表=2019年7月25日、東京・赤坂
 氏は、身内の内部告発者を黙殺する新聞・テレビ業界、不況にあえぐ出版業界には背を向け、インターネット動画配信という新しい分野で、言語感覚や話術の才能を開花させ、自分の伝えたいことを自由に伝える「ジャーナリスト」になったのだ。