2019年08月09日 12:40 公開

米移民関税捜査局(ICE)は8日、ミシシッピ州の複数工場で前日に一斉検挙した約680人のうち、約300人を釈放したと明らかにした。拘束された大勢に幼い子供がいるため、またしても親子が離ればなれになると批判が出ていた。トランプ政権は不法移民摘発を政策に掲げている。

ICEは7日にミシシッピ州各地の食品加工工場を立入捜査し、適切な入国許可を持たないとして労働者約680人を検挙した。

メキシコとの国境で多くの不法移民が拘束され、子供たちが親と別に収容されている問題を批判している野党・民主党は、今回の一斉摘発でも同じ問題が繰り返されると非難した。

こうした状況でICEのブライアン・コックス報道官は8日、BBCにメールで、「釈放された300人については拘束から釈放したもので、連邦移民裁判所での司法手続きが始まる。後日、出廷することになる」と説明した。

報道官によると、ICEは工場で680人を拘束する際、世話を必要とする扶養家族がいるか、学校に迎えにいく必要のある子供がいるかを確認したという。

拘束後の取り調べの際に各自に電話を使う機会を与え、子供の世話の手はずを整えられるようにしたという。子供の安全確保が特に難しい不法移民については、「優先的に速やかに手続きを処理し、釈放する」方針だという。

「特別な配慮」

強制捜査と摘発が残酷で、移民の子供たちを傷つけるという批判に対して、コックス報道官はICEの対応を説明。ICEの指示で国土安全捜査部(HIS)の職員2人が地域の学校に連絡をとり、摘発について知らせ、親が迎えに来ない子供に関して連絡先を周知したという。

「当局は、育児中だったり逮捕時に子供が学校にいるもしれない成人について特別な配慮をするべく、用意周到にこの摘発を計画した」と報道官は説明した。

ドナルド・トランプ米大統領は今年6月、「アメリカにもぐりこんだ何百万人もの不法移民」は強制送還すると述べ、不法移民の一斉摘発を発表していた。

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拘束された不法移民は、ミシシッピ州の州兵格納施設に集められ、取り調べを受けている。

ICEは、拘束した不法移民の国籍は明らかにしていない。しかし、メキシコ政府は摘発に巻き込まれたかもしれないメキシコ国民の支援のため、領事館スタッフをミシシッピ州の該当各所に派遣したとされている。

工場で何があった

ヒスパニック移民を標的にしたとされる乱射事件で22人が死亡したテキサス州エルパソをトランプ大統領が訪れた数時間前に、一斉摘発は実施された。

州内6カ所で5社が運営する鶏肉加工工場に、約600人のICE捜査員が入った。不法移民の家族や友人たちを前にICEは工場を取り囲み、次々と工場で働く移民たちを逮捕した。

ツイッターに学校の様子を投稿したアシュトン・ピットマンさんは、「今日の歴史的なICE摘発で連邦捜査員によって自分たちの職場で摘発された移民の子供や家族が、ミシシッピの学校で泣いている。愛する人にまたいつ、また会えるのか分からないまま。新学期が始まったばかりのこの週に。ミリアム・さんチェスさんの許可を得てシェアする」と書いた。

https://twitter.com/ashtonpittman/status/1159250833353170950


全国移民法センター(NILC)のノラ・プレシアド弁護士はBBCに、職場で実施される一斉摘発では多くの場合、「ICEはラティーノ系の労働者にのみ、差別的に注力する。拘束と逮捕に際して過剰な暴力が使われた事例もたくさんある」と話した。

「こうした摘発では、憲法上の権利侵害が横行する。特にICE職員には、相当な理由がなければ在留資格のみを根拠に労働者を拘束・逮捕する法的権限はない」

「一般的に、釈放されるされないを問わず、在留資格がない人については強制送還手続きが始まる」

ICEはミシシッピ州各地での強制捜査については、連邦刑法と行政法にもとづく捜索令状を執行したと説明している。

子供たちはどうなった

帰宅して親がいないと気づいた子供の一部は、地元の体育館に集められた。

ミシシッピ州モートンにあるコーク・フーズの工場で撮影され、フェイスブックに投稿されたビデオでは、工場から作業員が次々と移送車に乗らされるのを敷地の外から友人や同僚たちが見つめるなか、10代の女の子が泣きじゃくっているのが見える。

女の子の母親を知る女性がICE職員に「この子の保護者は母親しかいない」と訴えると、職員は移送バスが出発する前に母と娘の面会を認めた。母親は7日午後に釈放されるし、少女がアメリカ市民のため強制送還されないと職員は話している。

しかし米紙ワシントン・ポストによると、少女の母親は7日夜の時点では釈放されていなかった。

NILCのプレシアド弁護士は、こうした摘発は「移民家族の子供たちの安全、学校の成績、社会的・行動的に良好な状態かどうか、そして健康状態全般に悪影響を与える」という研究結果が出ていると話す。

地元放送局WJTVのアレックス・ラヴ記者は、「ミシシッピ州フォレスト近くのICE摘発による逮捕者の子供たちは今晩、近所の人たちや他人によって、地元の体育館に連れてこられた。その多くはおびえて、泣いている。学校から帰宅したら家に入れず、親がいないんだ。寄付による食料や飲み物が配られている」とツイートした。

https://twitter.com/AlexLoveWJTV/status/1159270331258986497


同州スコット郡教育委員会のトニー・マギーさんは地元紙クラリオン・レジャーに対して、6日に幼稚園に入園したばかりの子供の親が、翌7日に逮捕されてしまったと話した。

同郡では少なくとも6世帯で子供のいる親が拘束されたという。子供の年齢は幼稚園児から高校生と、多岐にわたる。

「学校はどうするんだという部分は、この事態がなんとかなってから心配する。自分のママとパパがどこにいるか分からない子供が、学校の勉強に集中できるはずがない」

割れる反応

摘発のあったジャクソン市のアンタル・ルムンバ市長は、「ICEの摘発は相手の人間性を奪い去るもので、それと同時に効果がない」、「ICEの摘発でこの地元は安全にならない。むしろ隣人を犯罪者扱いし、捜査当局への地域の信頼を失わせるものだ」と批判した。

https://twitter.com/ChokweALumumba/status/1159307071952707584


一方で、ミシシッピ州南部地区担当のマイク・ハースト連邦検事は、ICE捜査員は「不法移民」を逮捕するため令状を執行しているのだと強調。「(移民は)この国の法律と規則に従わなくてはならない。合法的に来るのでなければ、そもそもここに来ないほうがいい」と検事は記者会見で述べた。

ツイッターではトランプ氏支持者の多くがICEを擁護。順法の必要性を強調する投稿が多く見られた。その1人のカーマイン・サビアさんは、「ICE摘発で親が捕まった子供たちは気の毒だ。規則や法律は守らなくてはならないと、こういう形で子供が教わるのはつらいことだ。法をやぶれば償わなくてはならない。子供たちには同情するが、アメリカ人の親も毎日のように逮捕されて、その子供たちも泣く。それでもこの国では法を執行する」と書いた。

https://twitter.com/CarmineSabia/status/1159444364445323265


一方で、2020年米大統領選に民主党から出馬しているカマラ・ハリス上院議員はツイッターで、「このICE摘発は家族を引き裂き、恐怖を広め、地域社会を威嚇するためのもの。学童保育に出かけた子供たちが家に帰ると、親がいない。トランプが子供たちの人生を政争の具にしたがるから」と書いた。

同じように出馬しているコーリー・ブッカー上院議員も、「この政権の倫理的破壊力は果てしない。この子供たちを置き去りにして、トラウマを与えることで、いったい誰が安全になるというんだ」と書いた。

(英語記事 US immigration: ICE releases 300 people after Mississippi raids