2019年08月09日 13:45 公開

インドのナレンドラ・モディ首相は8日、実効支配するジャンムー・カシミール州から自治権を剥奪したことについて、同州の発展を妨げてきた「障害」を取り除き、「新時代」をもたらしたと、正当性を主張した。自治権剥奪をめぐっては、インドの支配強化につながるとして、物議を醸している。

モディ首相はこの日、ジャンムー・カシミール州に70年にわたり、独自の立法・行政・司法制度といった一定の自治性を認めてきた憲法370条の、ほぼすべてを廃止すると発表して以降、初めてとなる演説を行なった。

「憲法370条の廃止は、新時代の幕開けだ」

演説は、懸念や分断が生じている最中に、国営テレビとラジオを通じて行なわれた。しかし、4日夜から通信手段の遮断や外出禁止が続く同州の住民にとっては、ラジオが演説内容を知る唯一の手段となった。

多くのインド人が今回の措置を歓迎し、モディ政権の決断を称賛する一方で、政権側の手法は強引で違憲だという批判も出ている。

カシミール地方の領有権をめぐり、インドとの対立が続く隣国パキスタンは、同州住民に付与していた特別権限の廃止は国際法違反だと反発している。

パキスタンのシャー・マフムード・クレシ外相は8日、首都イスラマバードでの記者会見で、「我々は、軍事的選択肢は検討していない」と述べ、インドとの新たな武力衝突の可能性を否定した。

<関連記事>

インドとパキスタンはいずれも核保有国。両国はこれまで、カシミール地方の領有権をめぐる争いを繰り返してきた。1947年にイギリスから独立した2カ月後には第1次印パ戦争、65年には第2次印パ戦争、71年に第3次印パ戦争がそれぞれ勃発した。

現在では、国連が監督する停戦ラインが合意され、それぞれがカシミール地方の一部を実効支配している。

モディ首相の主張

インド政府は、ジャンムー・カシミール州の自治権廃止に加え、同州を連邦政府管轄下の2つの小さな領地に分割する方針だ。

一方の領地には、イスラム教徒が大半を占めるカシミールと、ヒンドゥー教徒が大半を占めるジャンムーが統合される。仏教徒が多く、文化的にも歴史的にもチベットに近い同州東部ラダックが、もう一方の領地となる。こうした「連邦直轄領」には、各州ほどの自治権はない。

モディ首相は、ジャンムー・カシミールについて、ゆくゆくは州としての地位を回復する可能性を示唆した一方、ラダックは連邦直轄領にとどまるだろうとしている。

首相は、カシミールの特別な権限が、「一部の人間を扇動」するための手段として、パキスタン側に利用されてきたと主張。インドが、この地域から「テロとテロリスト」を排除するという。

モディ氏は、「開発が大いに進み、すべての住民に権利が与えられる」と述べ、投票権や透明性の向上、鉄道や道路網の整備を約束した。また、カシミールの若者は「自分たちの土地の開発を担う」べきだとも述べた。

自然景観の美しいこの地域なら、映画産業が繁栄する可能性もあると示唆した。

「全世界から、ここへ映画の撮影をしに来ると思う。地元の人に雇用を生み出すだろう」

輸出については、「ジャンムー・カシミール産のサフラン染料やコーヒー、甘いリンゴやみずみずしいアプリコット、カシミール・ショール……世界中に広める必要がある」と述べた。

各国の反応

中国は、インドによるジャンムー・カシミール州の自治権剥奪は「容認できない」と強く反発している。

国連は、自治権廃止をめぐるカシミール情勢について、「深く懸念している」と表明した。

国連のルーパート・コルヴィル報道官は、「この全面的な通信規制」は、「これまで見てきたより全面的」だと懸念を示し、「ジャンムー・カシミールの将来の地位に関する、民主主義的な議論」に地元住民が「完全に参加すること」を阻止することになると述べた。

カシミールで何が起きているのか

インド政府は5日、70年にわたるカシミールとインドの複雑な関係性の基本原則「35A」を含む、インド憲法370条のほぼすべてを廃止すると発表した。

4日夜からは、同国が実効支配するジャンムー・カシミール州の封鎖を続けている。携帯や固定電話、インターネット・サービスが停止され、追加配備された何万ものインド軍兵士が州内を巡回している。

また、地元の政治指導者が自宅に軟禁されたり、拘束されている。元州首相2人も含まれるという。

政治家や活動家、財界人や教授など、少なくとも300人が拘束されたと報じられている。投石など住民による抗議行動も報告されている。

同州内と、国内の別の地域で暮らす複数のカシミール人は、BBCの取材に対し、政府に裏切られたという思いや、将来への不安を口にした。

なぜ政府は憲法370条を廃止したのか

長年にわたり憲法370条に反対してきたナレンドラ・モディ首相と、ヒンドゥー民族主義の与党・インド人民党(BJP)は、2019年の総選挙で、「歴史的大失態」である370条廃止を公約に掲げた。カシミールを統合し、他のインド地域と対等にするためだと主張していた。

政府はまた、この条項は、州外で暮らす人や、カシミール女性に対して差別的なもの」で、「同州の発展における障害」だとしていた。

憲法370条は、ジャンムー・カシミール州に、独自の立法・行政・司法制度といった一定の自治性を認め、法案作成も自由に行なうことができた。また、教育や就労、財産所有における特権が付与されていた。

(英語記事 Modi defends lifting Kashmir's special status