もう一つ、「出世を焦るな」と言ったのは、嫉妬が渦巻く中で、同期の議員を差し置いて、自分が光の当たるポストに就くと、風当たりが強くなるからである。必要なのは、竹下登元首相が言った「汗は自分でかきましょう。手柄は他人(ひと)にあげましょう。そしてその場で忘れましょう」という態度だ。とにかく「お先にどうぞ」という姿勢が大事なのである。

 2001年、私は学者を経て、52歳の時に参院議員になったが、年齢とは関係なく、1年生議員であることに変わりはなかった。そこで、自民党政務調査会の部会などに出席するときには、末席に座ることにした。もちろん政策の議論には積極的に参加したが、新人であることは忘れなかった。その態度を評価してくれたのが、野中広務元幹事長で、政治の要諦(ようてい)を教えていただくことができたのである。

 進次郎氏は青年局長、農林部会長、筆頭副幹事長、厚生労働部会長などを歴任し、着実に自民党内での出世の階段を上っているが、政府に関しては内閣府大臣政務官の経験があるだけである。一気に大臣を狙うのではなく、まず副大臣を経験し、行政の経験を一歩一歩積んだほうがよい。

 自民党政権が危機的状況にあるときには、人気取りのためにスター選手の抜擢(ばってき)人事もありうるが、今は安定政権で「安倍一強」である。下手に使われて失敗すると、二度と登板できないことになってしまう。

 何といっても、まだ38歳の若さである。急ぐことはない。政策の勉強をして、どのような課題にも対応できる能力を養うことである。

横須賀での自民党時局講演会で後継者の二男・進次郎氏を紹介する小泉純一郎元首相=2008年9月27日午後7時10分、神奈川県横須賀市(鈴木健児撮影)
神奈川県横須賀市での自民党時局講演会で
後継者の二男・進次郎氏を紹介する
小泉純一郎元首相=2008年9月27日(鈴木健児撮影)
 また、野党とのパイプづくりも重要であり、その点では国会対策の仕事を経験しながら進めるとよい。これは、角栄氏がお手本になる。

 さらには、官僚を使いこなすことができなければならない。そのためは各省の幹部官僚に「謙虚に教えを請う」という姿勢が肝要である。官僚の評価が低いと、要職はこなせない。

 以上のような点で、成功しなかった例が真紀子氏なのである。演説上手以外は、父・角栄の持つ優れた政治家としての資質を継承しなかった。進次郎氏は、その轍(てつ)を踏んではならない。