私はスポーツライターになろうと思って会社を辞めたわけではなかった。向こうに着いてすぐ世界クロスカントリー選手権がリスボン郊外で開かれ、澤木啓祐団長が日本選手団を引き連れてきた。日本陸連から世話をしろと連絡があり、特にその必要もなかったが、そこでロペスやロザ・モタ、フェルナンド・マメーデといったトップ選手と親しくなったのだ。

 テニスの全仏オープンに出掛けたのも85年のリスボンからだ。それからテニス記事を書き始め、週刊朝日で池波正太郎らの担当編集者だった重金敦之さんの目に止まって、朝日ジャーナルのノンフィクション大賞に「カルロスが走るまで」を書くことになる。それが佳作に引っかかった縁で連載を書き、書籍化された『ヒーローたちの報酬』(朝日新聞社)を読んだフジテレビのプロ野球ニュース編集長・矢野順二さんに長いこと世話になり…。

 『オリンピック全大会』は1896年のアテネ大会から書いている。もちろん見たわけではない。私が取材したのはソウル、バルセロナ、アトランタ、シドニーで、バルセロナとアトランタは辞めた新聞社が派遣してくれたから、よほどの幸せ者だ。

 読者には見てきて書いたような印象があるかもしれない。それは各大会をストーリーとしてとらえているからで、それがこの本の特徴といえば特徴かもしれない。多くのオリンピック書は記録を中心に書かざるを得ないが、スポーツライターの私には、スポーツの興味はとどのつまり記録ではないと考えているフシがある。

 オリンピック憲章の「より速く、より高く、より強く」は知られている。しかし、もはや100メートルもマラソンも、棒高跳びも走り高跳びも、オリンピック記録は世界記録とかなりの差がある。

 「より強く」にしろ、年齢制限のあるオリンピックのサッカーはワールドカップから見れば格下だ。それでも開催することに意味があるということになる―。
男子マラソン1位でゴールし、日の丸を手に笑顔の井上大仁=インドネシア・ジャカルタのブンカルノ競技場(撮影・松永渉平)
男子マラソン1位でゴールし、日の丸を手に笑顔の井上大仁=インドネシア・ジャカルタのブンカルノ競技場(撮影・松永渉平)
 来年は酷暑の大会が懸念されているが、それはとっくに分かっていたこと。私の懸念はマラソンの日本代表だ。体調不良に陥ったとき、日の丸で埋まった沿道で棄権できるだろうか。マラソンは2時間15分前後だが、テニスは3時間超えもある。錦織圭は「鍛えられた選手よりお客さんが心配だ」と話す。「速くも高くも強くもない」なら、オリンピックは何を求めているのか。

 リスボンで会った澤木さん、2度も遊びに来た友人で作家の関川夏央さん、重金さんも「労作だな」と言ってくれた。あいつ、まだやっていたのか、そう驚いたのだと思う。

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