重村智計(東京通信大教授)

 1970年代に大統領が暗殺された隣国は、80年代にソウル五輪の開催を果たして民主化に向かった。今から40年前の1979年10月26日、韓国の朴正煕(パク・チョンヒ)大統領は中央情報部(KCIA)部長に射殺された。

 私は、その軍法会議も取材した。朴大統領の暗殺に関して「消費税が指導者を殺し、財政は改善した」との因果関係を踏まえ、実は安倍晋三政権の支持率が激減する恐れがあることを、韓国の識者からも憂慮されている。米国や韓国に比べ、日本は低所得層への愛情に欠けるというのだ。

 犯人のKCIA部長、金載圭(キム・ジェギュ)は、南部の釜山(プサン)市と馬山(マサン)市で起きた反政府暴動の鎮圧に失敗したことでクビ寸前の状態に置かれ、精神的に不安定だった。そもそも、金載圭は賄賂や資金の使い込み、暗殺指令など多くの犯罪にも関わっていた。クビになれば、間違いなく逮捕されるから、朴大統領の暗殺に走ったのである。

 その不安心理から、民主化で米国と対立する朴大統領を暗殺すれば、米国が支持すると思い込んだのではないか、と指摘されていた。というのも、クーデターにしては相当いい加減な計画で、政権奪取の策略もなかったからだ。それほど衝動的な暗殺事件であった。

 私は事件直後、後に首相や国連総会議長を務めた韓国を代表する政治家の韓昇洙(ハン・スンス)氏に大統領暗殺の原因を聞いた。彼は当時、ソウル大の財政学教授で、日本の消費税に当たる「付加価値税」を導入した責任者だった。

韓国の朴正熙大統領=1974年8月撮影
韓国の朴正熙大統領=1974年8月撮影
 彼は、しばらく考えてから「絶対に記事にはしないでほしい」と断った上で、「暗殺の根本原因は消費税だ」と述べた。暗殺を招いたのは、釜山と馬山での大規模な反政府デモだった。学生たちの反政府デモに、零細業者や一般市民が多数加わり、韓国で「民主抗戦」といわれる大規模な暴動に拡大した。

 金載圭は朴大統領に「たいしたことはありません。すぐに鎮圧します」と報告していた。ところが、最終的に軍隊も出動する大事件になり、責任問題にまで発展した。

 韓国では、1977年に付加価値税が創設されて2年が過ぎ、零細業者の不満が高まっていた。零細小売業者は、帳簿をつけた経験もない。