山田肇(東洋大名誉教授)

 先の参院選で、山本太郎氏率いる「れいわ新選組」から2人の障害者が議員となった途端に国会の設備改修がニュースとなり、会期中の介護費用をだれが負担するかをめぐって喧々諤々(けんけんがくかく)の議論が起きている。

 そもそも、わが国は2006年に国連で採択された障害者権利条約を批准し、障害者に関わる法体系を整備してきた。それなのに現状は「仏作って魂入れず」の典型である。

 障害者権利条約は世界161カ国が署名している障害者に関する人権条約だ。第29条は「政治的及び公的活動への参加」で、選挙人(有権者)と被選挙人としての権利を定める。第29条のポイントは「締約国は、障害者に対して政治的権利を保障し、及び他の者との平等を基礎としてこの権利を享受する機会を保障する」である。

 さらに、障害者権利条約の批准にあたって制定された国内法の一つである、障害者差別解消法は第7条で「行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない」と定めている。

 「障害があるのに立候補して当選したのだから、当選後の活動が円滑に進むように手当てするのは障害を持つ議員の責任である」とは、これらの国際法と国内法からは読み取れない。

 ましてや「常時介護が必要な障害者は立候補しない方がよい」という意見は、法の下での平等を定めた憲法にも反する暴論というしかない。

 障害者権利条約の根本的な考え方は、障害者の社会参加への障壁を除去するのは社会の側の責任というもので、それは国内法にも引き継がれている。
参院選の比例代表特定枠で当選を決めた木村英子氏(左)と笑顔で撮影に応じる「れいわ新選組」の山本太郎代表=2019年7月、東京・平河町(酒巻俊介撮影)
参院選の比例代表特定枠で当選を決めた木村英子氏(左)と笑顔で撮影に応じる「れいわ新選組」の山本太郎代表=2019年7月、東京・平河町(酒巻俊介撮影)
 しかし、すべてが社会の側の責任といわれても躊躇(ちゅうちょ)するかもしれない。そこで、条約も国内法も「合理的な範囲での配慮を求める」となっている。莫大な費用がかかる場合や、せっかく配慮しても利用される可能性がほとんどない場合を除くためである。

 障害者の権利保護について世界を先導してきた米国で、合理的とは言えない場合として、しばしば示される仮想事例がある。大陸間弾道ミサイル(ICBM)を監視する仕事に視覚障害者が就きたいと言っても無理、というのがそれだ。

 レーダーが表示する情報を音声で的確に伝える技術を開発するには莫大な費用がかかるし、いざというときに視覚に障害を持つオペレーターが瞬時に対応するのはむずかしい。だからこれは合理的配慮の枠を超えるというわけだ。