このようにヘイトスピーチが多様な形態をとることから、用いられる施策も必然的にさまざまだ。表4-Aは世界各国でヘイトスピーチに用いられている施策の例を挙げたものである。このうち、特に議論の対象になることが多い刑事規制については、表4-Bにおいてヘイトスピーチに適用しうる主要な犯罪類型を列挙した。
【表4】
【表4】
 このほかにも、いくつかの視点から分類が可能である。例えば、規制の「主体」として、国・地方自治体・私企業・大学などを列挙できる。また、表4-Aの施策については保護する集団(人種、民族、宗教、性別、性的指向など)の点から分類を行うこともできる。

 以上のように、ヘイトスピーチとそれに対するありうる施策は多様であるため、規制は可能か、規制は憲法21条の「表現の自由」を侵害しないかといった抽象的な問いには意味がない。個々のヘイトスピーチの性格を見極め、それぞれに適した施策を用いるべきである。その施策がヘイトスピーチの生む害悪にうまく適合していて、十分に限定されたものなら憲法に違反しないだろう。

 他国のヘイトスピーチに関する施策について、筆者がこれまで研究してきた国を例に挙げて説明したい。

 アメリカは規制に消極的な国として例外的存在である。アメリカは原則として不特定多数人に向けたヘイトスピーチを規制せず、特定の人に向けたヘイトスピーチのみを取り締まる点に特徴がある。表1-Aにいう特定型に特化した規制を敷いているのである。

 アメリカでもかつては州や自治体レベルで不特定型の規制立法が設けられていたのだが、後に廃れていった。理由はいろいろあるが、最高裁が表現の自由を強く保障する法理を展開し、ヘイトスピーチにもそれがほぼそのまま適用されていったこと、全米黒人地位向上協会(NAACP)などのマイノリティー系諸団体が早々に規制反対の立場に転じたことなどを指摘できる。

 一方で、アメリカでは特定型のヘイトスピーチは厳しく規制される。例えば、連邦と各州ではヘイトクライム法が整備されており、特定の人種集団のメンバーへの憎悪に動機づけられた犯罪行為は厳しく処罰される。

 2017年の夏にバージニア州シャーロッツビルの極右集会で極右団体とカウンター勢力が衝突した際、白人至上主義者の男性が運転する車がカウンター側に突っ込み、1人の女性が死亡した。アメリカでは不特定型のヘイトスピーチは処罰されないため、このような集会自体は合法だが、運転手の男性はヘイトクライム法により厳しく処罰され、終身刑の判決が下された。

 また、アメリカでは職場や大学キャンパスなどでハラスメントに該当するヘイトスピーチが厳しく規制されている。職場に関しては、ハラスメントを規制する公民権法第7編の定め(セクシャル・ハラスメントだけでなく人種差別的ハラスメントも対象とされる)に基づき、使用者に高額の賠償を請求することができる。