平野和之(経済評論家)

 近年、駿河湾の宝石と呼ばれるサクラエビの不漁が深刻化している。静岡県の地元紙や週刊誌なども報じており、駿河湾に流れる富士川上流(山梨県)にある民間の「雨畑ダム」への不法投棄による汚濁が主因との見方が強まっているようだ。ただ、不法投棄を主因とするには、いささか疑義があり、むしろダム行政の無策や環境問題が引き起こしている可能性が高まっている。そこで本稿では、サクラエビの不漁問題などから浮かび上がった日本のダムや河川行政のあり方などについて考えてみたい。

 山梨県南西部に早川町という過疎自治体がある。過疎なのに珍しく健全な財政状況の自治体で、その背景にあるのは、砂利採取場や採石場、発電所など、川をベースにした多数の開発だ。要するに、それらによる固定資産税が寄与しているわけだ。

 さらに、早川町は甲府と富士をつなぐ縦貫道も通っており、今後はリニア中央新幹線の開通工事に合わせ、さらに固定資産税が増える見通しだ。そもそも早川町のように、過疎化した自治体で、財政が健全である条件は、原発が象徴するように発電関連施設を有しているかどうかという悲しい現実がある。

 本題に戻すが、雨畑ダムは、戦後の国策として鉄鋼業が盛んだったころ、アルミニウム総合メーカー「日本軽金属」(日軽金)の工場が、発電のために建設した。どのような経緯かは定かではないが、特別に50キロにも及ぶパイプラインを通し、発電に利用した水は駿河湾に直接放出されてきた。

 そもそも雨畑ダムの水は、富士川に流れ込むが、日本三大急流の一つだけに、そこに育まれたアユなどは、日本でも指折りの大きなサイズになると有名だ。しかし、そんな富士川も異変が起こっているという。

 昔から富士川は台風が来ると1カ月釣りができないと言われるほど濁り続けてきたが、近年は、台風などの大雨に関係なく濁りが多く、また、台風後は白っぽい濁りが出るようになった。当然、漁獲高も激減し、富士川漁協(山梨県身延町)の収支も打撃を受けている。

 そしてさらに深刻化しているのが、冒頭で触れたサクラエビの不漁だ。地元漁師は富士川の濁りが原因ではないかと思っているようだが、これで騒ぎ出せば、富士川の濁りは昔からあっただけに、乱獲への非難を逃れるための難癖だと指摘されかねないとして、問題視することを避けていたようだ。ただ、深刻さは年々増し、サクラエビの漁獲高はピーク時の10分の1にまで減少し、やむを得ず漁獲制限に舵を切っている。
春漁が解禁となり、初競りに掛けられるサクラエビ=2019年3月、静岡市
春漁が解禁となり、初競りに掛けられるサクラエビ=2019年3月、静岡市
 こうした中で、地元の静岡新聞が取材を進めるうちに、雨畑ダムに関わる問題が浮上し、調査を開始した。その結果、雨畑ダムの砂利採取場や採石場、リニア、縦貫道など、土砂が大量に流れ込む原因が多数あることが分かった。さらに、静岡新聞のスクープで、雨畑ダムを建設した日軽金から許可を受けている産業廃棄物処理業の「ニッケイ工業」が、大量の汚泥を不法投棄していた疑いも明るみになった。

 この報道によって、一気に雨畑ダムとサクラエビ不漁の関連がクローズアップされ、リニア開発の残土の流出など、早川町をめぐる問題も注目されるようになった。雨畑ダムの上流には、東洋一といわれる砂防堰堤があるが、数年で土砂が満杯になる状態で、すでに無用の箱モノと化している。そもそも、雨畑ダムも9割が土砂で埋まっており、このままでは、集中豪雨などがあれば80ある周辺の集落が水没する懸念もあるという。