吉川圭一(グローバル・イッシューズ総合研究所代表)

 9月14日、トランプ大統領は、2011年に米国特殊部隊によって暗殺された9・11テロの首謀者ウサマ・ビンラーディンの息子ハムザ・ビンラーディンを、やはり米国特殊部隊が暗殺したことを確認する声明を出した。

 ハムザは2015年にネットを通じて父親の後継を宣言し、その後は彼の父親譲りのカリスマ性の下、ウサマ暗殺以降、壊滅状態に近かったアルカイダは、急速に力を回復しつつあった。トランプ氏の声明に対してアルカイダは、今のところ否定ないし肯定する声明を何も出していない。いかに彼が重要な人物だったかは理解できるだろう。

 これはトランプ氏にとっては重大な業績のはずなのである。しかしトランプ氏は暗殺の日付を明らかにしない。米国内では実は7月中に暗殺されていたらしいという情報が多い。

 では、なぜ今になって発表したのか? 9・11から18年目の節目という意味もあるだろう。DNA鑑定などに手間取っていたのかも知れない。

 しかし、同時にアフガンからの撤退のためにアルカイダをかくまっていたタリバン勢力と和平会議を行うつもりだったのが、ボルトン氏その他の反対でキャンセルせざるを得なかった。そのボルトン氏は直後に解任された。それから1週間後というタイミングには非常な意味があるのかもしれない。

 アフガンからの撤退に道筋を付けたいトランプ氏としては「アルカイダを安全にした。だからタリバンと対話をしても大丈夫である」。そのようなメッセージを国内外に送りたかったのではないか?

 だが、米国の専門家筋では、今アフガンにいるテロ勢力の中で、最大なのはタリバンであり、2001年のアフガン戦争後より巨大化していて、とても米国が信用してアフガンの今の政府と協力させることができる状況にないと考えられている。

 ちなみにアフガンには数千人の訓練された「イスラム国」(IS)の戦闘員もいる。アルカイダはなんと数十人規模の戦闘員しかアフガンには残っていないのではないかと言われていて、それもハムザ暗殺がアフガン情勢を安定させるとは言い切れない理由とも考えられる。

 ただ、アルカイダは南アジア中心に多くの支部を持っている。それは数百支部にも上ると言われている。

 実際、ハムザは父親暗殺後、スンニ派とシーア派の枠を超えて、イランの庇護(ひご)を受けていた時期がある。その時期に彼は米国大使館襲撃などを計画したエジプトのアルカイダの指導者であるアブドラ・アフメド・アブドラの娘と結婚している。

 トランプ氏のハムザ暗殺確認の声明から数時間後、そのイランに支援されているイエメンの国際テロ組織がサウジの石油精製施設をドローン攻撃した。被害は同国の石油輸出の半分を停止させるほどのもので、これは世界の石油需要の約6%に相当するという。
攻撃で損壊した国営石油会社サウジアラムコのアブカイクの石油施設(米政府、DigitalGlobe提供・AP=共同)
攻撃で損壊した国営石油会社サウジアラムコのアブカイクの石油施設(米政府、DigitalGlobe提供・AP=共同)
 また、タリバンの指導者たちはトランプ氏との会談キャンセルの数日後にロシアを訪問し、協力を模索している。イランもロシアと協力して、イスラエルを狙うシリアのテロ集団を支援している。さらに、それと同時に米国本土まで標的にできるベネズエラのテロ集団も支援している。

 実はトランプ氏がボルトン氏を解任してまでイランとの対話路線にこだわったのは、彼の真の目的がイランの核武装阻止だけではなく、この国際テロへの支援を止めさせることにあるからだ。