藤井靖(明星大心理学部准教授、臨床心理士)

 2019年8月、女子プロゴルフの渋野日向子選手が「AIG全英女子オープン」に初出場し、見事優勝という快挙を成し遂げた。これは、日本勢としては1977年の全米女子プロ選手権において優勝した樋口久子以来となる42年ぶりの海外メジャー制覇である。

 渋野は「スマイルシンデレラ」と呼ばれるように、その笑顔が象徴的に取り上げられている。確かに、ラウンド中も笑顔を見せることが多く、プレッシャーのかかる場面であっても、新人離れしたリラックス感がにじみ出ているように見えなくもない。

 しかし一方で、あのスマイルは、彼女が意図してやり始めて習慣化し、ラウンド中の一つの「ワザ」になったものである。聞けば渋野は、高校生まではプレー中の喜怒哀楽を出しすぎたり、よい結果が伴わないと、ふてぶてしい態度を取ることもあったという。

 笑顔は、その課題を克服し、安定した情緒を維持するための対処行動なのだ。では、なぜ笑顔に効果があるのか。その一つは、既に報道などで言及されているように、感情をコントロールする作用があるからだ。

 つまり、通常はうれしい・楽しいなどの感情が基になって笑顔が作られるが、逆に笑顔を作ることによって、ポジティブな気分に誘導されやすくなる、ということである。加えて、そもそも人は基本的に、同時に二つの感情を抱くことはできない。

 笑顔を作り、快感情を伴いやすくすることで、怒りの原因に直面したとしても不快な感情が顕在化しにくくなり、結果、情緒が安定するということである。

 心理学では、「ランチョン・テクニック」といって、難しい話や交渉をするときは食事をしながらするとよい、という理論がある。これも食事というポジティブな感情が伴いやすい行動を先に起こして、その結果、話し合いや交渉がスムーズに進む、という考え方に基づいている。

 もう一つ、渋野の笑顔はギャラリーや周囲の人の笑顔や激励をも引き出す。当然のことながら、人と人との関係は相互作用なので、自分がどう振る舞い、どう接するかによって、自分を取り巻く世界は全く別のものになる。
北海道meijiカップ最終日、大勢のギャラリーに囲まれながらティーショットを放つ渋野日向子=2019年8月11日、札幌国際CC島松C(戸加里真司撮影)
北海道meijiカップ最終日、大勢のギャラリーに囲まれながらティーショットを放つ渋野日向子=2019年8月11日、札幌国際CC島松C(戸加里真司撮影)
 彼女は、ギャラリーの応援が力になったことをたびたび述べており、多くの聴衆に注目される環境が、自分のパフォーマンスを向上させることを経験的に知っているのであろう。

 その環境を作っているのは、他ならぬ彼女の笑顔であり、キャラクターであり、ファンサービスである。そして、作られた舞台の影響が「良いスコアとして表れる→ギャラリーはさらに盛り上がる→モチベーションやスコアのさらなる向上…」というように、本人と環境の好循環が生まれていることが見て取れる。