重村智計(東京通信大教授)

 「韓国政治を見ていると、まるで『韓流(はんりゅう)ドラマ』のようだ」。ある情報番組の出演者がそう語っていた。それもそのはずで、韓流ドラマには韓国の政治と社会文化への批判が込められている。作家やドラマの脚本家が題材とするのは「韓国病」だ。

 大統領の側近や家族が繰り広げる不正入学や不正投資、論文盗用疑惑は、権力者や金持ちにつきまとう社会悪であり、進歩派、保守派を問わず共通する病理だ。韓国政治の背後には「正統性の喪失」や「アイデンティティー探し」など、政治と社会が抱える「解決できない韓国病」がある。

 韓国は、民主的な政治体制でなければ、民主的な社会でもない。民主化闘争をした立派な政治家や指導者がいるではないか、という指摘は大きな誤解だ。民主化運動家は民主的な大統領ではなかったからだ。長年にわたって韓国を取材し続けた筆者の結論である。

 民主化闘争をした金大中(キム・デジュン)、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の方が、政治家や言論人に対する盗聴を多く仕掛け、弾圧も非常に巧妙に行われた。だが、保守系政治家にも、「清廉潔白」な人物は五本の指で数える程しかいなかった。国民のために戦って「刑務所に入る覚悟」は薄い一方で、賄賂と職権乱用は日常茶飯事だった。

 民主主義の基本は言論の自由と報道の自由だが、韓国ではどちらも制限されている。大統領の家族による、不正蓄財して海外に逃避した疑惑や、日本の超保守的な大学を卒業した事実、それに「北朝鮮にいる大統領の親族が事実上の人質になっている」といった報道などできるわけがない。

 政権を批判する新聞社は税務調査によって脅され、社長が脱税の罪で収監された。韓国では、日本と安倍晋三首相を一方的に激しく非難するが、日本弁護や安倍首相を評価する発言は封じられる。

2003年2月25日、ソウルの国会議事堂前広場で行われた大統領就任式を終え、手をつないで舞台を降りる盧武鉉大統領(左)と金大中前大統領(代表撮影)
2003年2月25日、国会議事堂前広場で
行われた大統領就任式を終え、手をつないで
舞台を降りる盧武鉉大統領(左)と
金大中前大統領=ソウル(代表撮影)
 慰安婦や徴用工に疑問を呈する発言に至っては命がけだ。『反日種族主義』の主著者であるソウル大の李栄勲(イ・ヨンフン)名誉教授らは謝罪を強要され、暴行まで受けた。儒教的論理は白か黒かの二元論争が得意で、「正義」や歴史の立て直しの「倫理」を求め、中庸な解決や主張を排除する。

 本来であれば、民主主義の原則は「あなたの意見には反対だが、あなたが主張する権利は命に代えても擁護する」という言葉で表現される。韓国では、この原則を貫くのが難しい。

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長を批判すれば、インターネット上で総攻撃に遭う。批判の声を上げた者に対しては、ネットで誹謗(ひぼう)中傷や個人攻撃が大々的に行われる。これが韓国の「儒教的民主主義」のリアルだ。