2019年09月24日 14:46 公開

ラグビー・ウェールズ代表の元キャプテン、ギャレス・トーマスさん(45)が14日、エイズ(後天性免疫不全症候群)の病原体、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染していると明かした。トーマスさんは、タブロイド紙の記者が自分の両親に、HIV感染の事実を勝手に伝えたと訴えている。

トーマスさんは、タブロイド紙「サン」がHIV感染について報じると脅迫してこなければ、自ら公表することは「絶対になかった」と述べ、同紙がHIV感染の詳細を報じるのではないかと、恐れながら生活していたと明かした。

さらに、自分が家族と適切な話し合いの場を持つ前に、同紙の記者が両親に接触したことを批判した。

トーマスさんはBBCの朝の情報番組「ブレックファスト」で、「私の今の状況を想像してほしい。私が母と父と腰を据えて、自分のきわめて個人的な事柄について伝える。そういう時間を今後決して、絶対に、絶対に取り戻すことはできない。(タブロイド紙が)そうする権利を私から奪った」と述べた。

「私を愛してくれて、何があっても私を支えてくれる両親がいて、私は幸運だ。しかし私には、両親とその時を一緒に過ごす権利があった」

トーマスさんは、HIV感染の公表翌日には、英ウェールズ・テンビーで開催されたアイアンマン(トライアスロン)レースで完走した。トーマスさんは、2009年にゲイであることを告白している。

トーマスさんはさらに18日、BBCラジオ・ウェールズに対し、「この事実が報道されるのではないかとおびえながら、生きていた。タブロイドは自分たちの勝手な決まりに従っているから」と話した。HIV陽性と診断されてから一番大変だったのが、感染を隠し続けることだったという。

「手紙を送ったとしても、どのタブロイド紙もそれを無視するだろう。大手タブロイド紙と法廷で争えるような資金は、持っていない。あいつらは何をやるにしても、自分たちのやり方を正当化する言い訳を見つける。家族が公表に同意したんだとかなんとか、適当なことを言うだろう」

トーマスさんはツイッターに動画を投稿し、HIV感染を公表した経緯について説明。「悪人」たちから脅迫され、公表を強いられたとしている。

マスコミの関与がなければ、HIV感染について自ら公表したかどうか質問されると、「公表するだろうと言いたいが、そう答えたら私は偽善者になってしまう」、「絶対に公表しなかった。ほかの誰にも関係がないことなので」とトーマスさんは答えた。

前日には、英クリケットのベン・ストークス選手が、トーマスさんのHIV感染を報じた英紙サンの1面記事は「実に不快」で「ジャーナリズムの下の下」だと批判した。

サン紙は、BBCに対し、トーマスさんの家族の1人から協力を受けたと主張した。

「報道倫理」

英下院デジタル・文化・メディア・スポーツ(DCMS)委員会のデイミアン・コリンズ委員長は、BBCウェールズの取材で、「私は、人々にこうした圧力をかけることに公益があるとは思わない」と述べた。

「人をこうした状況に追い込むなんて、私は個人的な問題だと考える。(中略)これは完全に(トーマス)が判断すべきことだ」

報道倫理に関するレヴェソン委員会で証言した、ロンドン大学ゴールドスミス・コレッジのジャーナリズム学部教授、アンジェラ・フィリップス氏は、ストークス選手やトーマス氏などの報道は、報道の自由や法律よりもむしろ倫理の問題だと指摘した。

フィリップス氏はBBCラジオ番組で、「今この国のタブロイド報道は、金を生むものは何でも正当化されるという状況に陥っている。その原因のひとつは、インターネットやソーシャルメディア、そしてニュースの伝達手段だ」と述べた。

「タブロイドは、自分たちが決して触れるべきではない他人の素性を明かすことで、当事者がどれほど傷つくのか、判断を見失っているようだ」

一方、報道の自由を掲げる団体「ソサイエティ・オブ・エディターズ」のイアン・マリー事務局長は、報道の自由の原則に注意を払わなければならないと述べた。

「私はサンを擁護していない。私が擁護しているのは、報道の自由の原則であり、自分たち何について報じるのか十分注意しようと呼びかけている」

さらに、「我々には報道の自由がある。それは、自由社会という名の王冠にはめこまれた宝石だ。そして、政治家や富豪、権力者といった他人を食い物にしようとする者が、報道の自由が終わることを望み、常にうろうろしている」と付け加えた。

「絶対的レジェンド」

トーマスさんは14日、HIV感染者は杖なしでは歩けず「死にかけている」のだなどと、誤った認識が広まっていると指摘したかったと話した。

その翌日、トーマスさんは過酷なアイアンマンレースに出場し、12時間18分で完走した。レース中、沿道に集まった多くの人が熱烈な声援を送った。

HIV感染を公表して以降、トーマスさんを支持する声がたくさん上がった。

トーマスさんは17日、サセックス公爵ハリー王子と面会した。ハリー王子は「偏見を打ち壊れば、検査を恐れて受診しない人が減る」だろうと、強い関心を示していた」という。

トーマスさんは、王子と共に「連携していく」と付け加えた。

ハリー王子はさらにインスタグラムにメッセージを投稿し、「ギャレス、君は圧倒的なレジェンドだ! HIV陽性だと共有することで多くの命を救い、また、HIVに感染していても強くたくましく生きられると身をもって示すことで、偏見を打ち砕いている」と述べた。

ハリー王子の兄、ウイリアム王子も、トーマスさんへの支持を表明。ツイッターで、「いつもながら勇敢だ。ピッチの中でも外でもレジェンドだ。応援しているよ、ギャレス。W」と書いた。

https://twitter.com/KensingtonRoyal/status/1173181144281624576

(英語記事 Reporter 'told Gareth Thomas' parents of his HIV'