吉川圭一(グローバル・イッシューズ総合研究所代表)

 9月14日にサウジの石油施設が攻撃された事案は、イランとの戦争を勃発させるだろうか。そして日本に少なくとも石油の側面で大きな影響があるだろうか。その疑問に対する回答は、現段階では限りなく「No!」に近い。では日本は何もせずに安心していてよい状況なのか。それを考えてみたい。

 まず、イラン戦争は起こるか。そもそもトランプ大統領が米国外での戦争を積極的に望まず、イランとは交渉と経済制裁で諸問題を解決しようとしている。米国民も支持政党にかかわらず8割以上が、その方針を支持している。米軍も90万人の巨大な陸上兵力を持ち、ロシア製の高性能なロケットその他を保有するイランとの全面戦争を望んでいない。そしてイランも80年代のイラクとの戦争で人口の2%近い100万人が死亡し、国家経済などに重大な悪影響が出た現象を繰り返したくはない。

 サウジアラビアもまた、この事案まで日産1200万バレルの石油を精製してきたが、確かに今回の攻撃で半分近い570万バレルが精製できなくなった。だが、サウジは早ければ9月末には日産1200万バレルを回復できるのではないかと考えている専門家もいる。

 また、日本を含む重要な顧客向けに備蓄している石油が1億8000万バレルもある。つまり、実は大きな影響があったとは言い切れないのである。

 実際、国際石油価格は、この事案前の1バレル約60ドルから、65ドルに上昇した程度である。これは比較的穏やかな変化であると市場関係者は受け止めている。

 さらに米国も自国が産油国になった関係上、80年代には1日200万バレルを中東地域から輸入していたのが、今では半分以下である。そのためトランプ政権成立以前から言われている「米国は中東地域に軍を展開させている必要があるのか?」という論調が、米国の有力なメディアやシンクタンク報告書の紙面を踊っているほどなのである。

 しかし、サウジがその防衛を米国に依存しており、地域のバランスを考えると、米国も簡単に放棄してしまうわけにはいかない。
20カ国・地域(G20)首脳会合 記念撮影に臨む、サウジアラビアのムハンマド皇太子(奥)とドナルド・トランプ米大統領(右)=2018年11月30日、アルゼンチン・ブエノスアイレス(ロイター=共同)
20カ国・地域(G20)首脳会合 記念撮影に臨む、サウジアラビアのムハンマド皇太子(奥)とドナルド・トランプ米大統領(右)=2018年11月30日、アルゼンチン・ブエノスアイレス(ロイター=共同)
 そこで9月20日、トランプ政権は、サウジとアラブ首長国連邦(UAE)に、防空システムと追加の兵力を送ることを決定した。ただし国防省高官は、これは防衛的な措置であり、サウジなどに追加派遣される部隊は、数千人規模にはならないだろうと述べている。つまり政治的、象徴的な意味が大きいのである。

 それよりも非常に重要なのは、同時に発表されたイランへの新しい金融制裁だろう。

 トランプ政権は9月20日、前述のサウジなどへの軍事的支援と同時に、イランの中央銀行および国家開発基金に対する新しい制裁を発表した。その結果、これらの金融機関が米国に持つ資産は凍結され、米国に拠点を持つ金融機関や企業との取引も停止させるだけではなく、これらイランの金融機関とビジネスを行う外国企業などの米国市場へのアクセスも禁止することができる。

 ムニューシン米財務長官によれば、これらのイランの金融機関は、レバノン、シリア、イラク、イエメンなどで活動するヒズボラなどの国際テロ組織に資金を供給してきたという。例えば今年1月に国家開発基金は、「イスラム国」(IS)などのテロ組織に48億ドルもの資金提供を行っているという。

 このような問題は以前から続いていて、そのため米国は昨年、イラン中央銀行のバリオラ・セイフ総裁を国際テロリストに指定するという非常に珍しい措置を既にとっていた。もちろん他国の中央銀行に対する金融制裁が異例なものであることは言うまでもない。