もともと米国のイラン強硬路線は、単に核武装阻止だけではなく、テロに対する支援を止めさせることにあった。例えばレバノン、シリア、イラクを中心に展開してイスラエルを狙い、米国の裏庭ベネズエラにまで進出しているイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラは、シリアとイラクだけでも、そこに展開する米軍5200人の20倍以上の兵力を持つ。このヒズボラやイエメンからサウジを狙い今回の石油施設攻撃を行ったと言われるテロ集団などに対し、イランは莫大な資金援助を行ってきた。

 そのための重要な送金ルートで、イラン国家開発基金だったわけだが、これは確かにイランの核開発などにも予算を回している。イランの核開発問題に関しては、イラン核合意に参加した欧州の国々などは、いまだに同合意を尊重し、米国の対イラン制裁には積極的ではない。

 しかし、国際的なテロ対策が目的であるということになれば、この度の金融制裁に関しても、積極的に協力する可能性がある。例えばイランの中央銀行や国家開発基金が、新しい秘密口座を開設することへの取り締まりなどである。

 それが成功すれば、テロ対策に非常に効果的なことは言うまでもない。それだけではなくイランの国内経済が破綻寸前になり、現政府が国民の蜂起で崩壊する可能性もある。それには時間がかかるかもしれない。しかし最初に述べたような理由で軍事攻撃を行うよりはベターと思われる。

 もしボルトン氏が国家安全保障会議(NSC)の大統領補佐官を続けていたとしたら今回の石油施設攻撃を契機に一気に対イラン戦争が起こったかもしれない。しかし石油施設の攻撃は、彼の解任から数日後に起こった。そしてイランへの金融制裁などが決定される2日前の9月18日に後任のロバート・オブライエン氏が大統領補佐官になっている。

 オブライエン氏はボルトン氏が国連大使時代に副官として仕え、歴代の共和党大統領候補の選挙参謀も勤めたタカ派に近い人物ではある。しかし基本的には在野の弁護士としての業績や経歴の方が大きく、トランプ政権になってからも国務省の国際人質救出交渉担当者として辣腕(らつわん)を振るった。つまり米国人を人質にするような国際テロ組織の問題には精通していると思われる。

 そして基本的には交渉人タイプの人材なので、ボルトン氏のように自らの意見を推し進める(そのためにNSC内部の決定プロセスを不透明化する)のとは違い、NSCの決定プロセスを重視するだろうと言われている。

 就任2日で、どれくらい影響があったかは分からないが、このような決定スタイルが、この度の金融制裁などには適していることは確かだろう。

 ボルトン氏からオブライエン氏に大統領補佐官が交代する期間に、サウジでの石油施設攻撃が起こっている。何か大きな力が働いたのかもしれない。こう考えてみるとアクシデントがない限り当面はイラン戦争はないと考えてよいだろう。
スウェーデン・ストックホルムを訪れたオブライエン米大統領特使(AP=共同)
スウェーデン・ストックホルムを訪れたオブライエン米大統領特使(AP=共同)
 だが、それは日本にとって、望ましいわけではない。この金融制裁や今までの石油輸出への制裁が続いて、しかしイランが米国となかなか妥協しない、あるいはイラン政府が倒れない状況が、長く続いたとすると、今年の年末くらいから、1バレル80ドルに近い石油の値上がりが起こる可能性がある。

 世界の国内総生産(GDP)の1・2%を占めるイランの経済が大打撃を受ければ、その影響が世界経済に出るからである。これは今の米中間の貿易戦争と同じ0・2~0・3%も世界のGDPを縮小させる。特に中東の石油や経済への依存度が高い日本経済には、はるかに大きなダメージが予想されるように思う。

 では日本は、どうしたらいいのか? たとえ苦しい時期はあっても、米国のイラン金融制裁に積極的に協力し、イランを妥協ないし崩壊に追い込むしかないと思う。

 米国に逆らってイランと石油などで取引しても、あるいは石油の備蓄を増やしたりしても、米国の金融制裁の世界のGDPなどへの影響は打ち消せない。いずれにしても日本は米国との関係なしに世界では生きて行けない。

 特に今回の金融制裁のターゲットが核開発阻止だけなら英仏独などと協力できなくはないかもしれないが、テロ対策が真の目的であることが明確になってきたので、ますます積極的に協力せざるを得ない。また、積極的な協力を正当化できるとも言える。具体的にはイランの金融機関の秘密口座開設の取り締まりなどが重要だろう。

 その結果として時間はかかってもイランの現政権が米国に協力的になり、あるいは崩壊してイランが民主化されれば、それがテロ対策も含めて日本にとっても最も望ましい最終的解決になるだろう。

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