熊代亨(精神科医)
就職氷河期世代、いわゆる「ロスジェネ世代」について語るとき、当該世代である私はどうしても政治的にならざるを得ない。ここでいう「政治的」とは、「ロスジェネ世代の肩を持たずにはいられない」ということだ。
2019年4月、政府はこのロスジェネ世代の支援策を発表した。「人生再設計第一世代」と呼んで、雇用の安定化や中途採用等支援助成金の緩和などを推し進めていくという。
しかし、「人生再設計第一世代」とは一体何だろう。私の周囲には、このボキャブラリーに白けきっているロスジェネ世代が少なくなかった。
私個人は「臭いものに蓋(ふた)」をするような、一種の言葉狩りだとも思った。ロスジェネ世代をポジティブに言い換えてみたところで、暮らし向きは変わらない。過ぎた時間も戻らない。
そう、私たちの世代にはもう何もかもが遅すぎた。政府のかけ声とは裏腹に、ロスジェネ世代の多くには、人生の再設計の余地があまり残っていない。
米国の心理学者、E・エリクソンの発達段階説で考えるなら、今、この世代が迎えているのは壮年期であり、もはや思春期ではない。エリクソンの学説に沿って、壮年期の特徴をざっくり語ると、壮年期とは、思春期までの人生経験によって生産的にも停滞的にもなる人生の時期であるとされる。

ロスジェネ世代の過半が30代も半ばを過ぎていることを思うと、「もう勝負の時期は過ぎている」ということだ。政府は、何より国民は、どうしてもっと早くロスジェネの人生に手を差し伸べられなかったのか。