2019年09月26日 8:28 公開

英最高裁判決を受けて審議を再開した下院で25日、ボリス・ジョンソン首相は「国内でこれほど議論が噴出しているとき、政治問題について(最高裁が)判断を示したのは間違っている」と司法判断を批判した。首相が使う激しい言葉遣いに、野党議員たちが強く反発し、首相がその身の安全への懸念を一蹴するやりとりもあった。

首相による議会閉会は違法だという最高裁判決にもとづき、下院は審議を再開し、ニューヨークで開かれている国連総会に出席していたジョンソン首相は急きょ帰国した。野党が首相に謝罪や辞任を求めたが、首相はこれに応じず、最高裁の判断を「尊重」するものの、「政治問題」に司法が判断を示すべきではなかったと述べた。

さらに首相は、「この院の外にいる国民は何が起きているか理解していると思う。この議会はひたすら自己中心的で、政治的に臆病なため、自分たちは脇へどいて国民に意思表示させたくないのだ。野党第一党の党首とその党は、国民を信用していない。国民投票の結果を覆したいという欲求でいっぱいで、それしか見えていない」と批判。議会は「審判の日をついに迎える」べきだと、総選挙に応じるよう野党を挑発した。

首相はその上で、総選挙を可能にするため自分への内閣不信任案を提出するよう、少数政党に異例の呼びかけをした。最大野党の労働党はこれに対して、まずは欧州連合(EU)から合意のないまま離脱する可能性を排除するのが先決だと反論した。

「やってみたければ」

首相は、「今日の審議終了までに(労働党が)内閣不信任案を提出すれば、明日(26日)にも採決できる。あるいは、ほかの小さい政党がやってみたければ、動議を提出すれば、採決の時間を与える」と述べた。

イギリスでは2011年の議会任期固定法(FPA)により首相の議会解散権が制限されており、解散には下院議員の3分の2以上の同意、もしくは内閣不信任案の可決が必要。ジョンソン首相はこれまでに2度、解散の動議を提出したが3分の2の賛成を得られなかった。これに対して内閣不信任案は単純過半数で成立する。最大野党党首による内閣不信任の動議を例外に、政府は少数政党が不信任を出しても審議に応じる義務はない。それだけに、政府が自ら少数政党に、内閣不信任案の提出を呼びかけて審議に応じると申し出ることは、きわめて異例。

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労働党と野党・スコットランド国民党(SNP)は、EUと離脱条件で合意しないままEUを離脱する可能性を排除しない限り、総選挙の実施は支持しないという姿勢を示している。

労働党のジェレミー・コービン党首が解散・総選挙に応じないことをジョンソン首相が嘲笑すると、与党・保守党の議員たちがしばらく拍手を続けた。これは下院では異例の光景だった。

対するコービン党首は、ジョンソン氏は首相として「不適格」で、最高裁判決を受けて「名誉ある行動をとり辞任すべきだった」と非難した。

「簡単な言い方をすれば、この国のためを思えば、(ジョンソン首相は)辞めなくてはならない。総選挙をしたいのだと言う。私も総選挙をしたい。話は単純だ。総選挙をしたいなら、(離脱期限の)延期を確保しなさい。その上で総選挙をやろう」と、コービン党首は述べた。

下院はすでに、野党と与党造反議員の投票によって、EU離脱(ブレグジット)期限の10月31日までに離脱協定をまとめるか、離脱延期をEUに要請することを政府に義務づける法案を成立させている。しかし、ジョンソン首相はこの法律を「降伏法」と呼び、EUとの合意のあるなしに関わらず10月31日に離脱すると力説しているため、労働党は首相への不信感をあらわにしている。

「扇動的表現を控えて」「たわけたこと」

自分の議会閉会の決定が最高裁で判事11人全員に違法と判断されたことについて、ジョンソン首相がいっさい反省する様子を見せていないと、複数の野党議員から批判が相次いだ。

労働党のレイチェル・リーヴス議員は、この日の本会議場の光景は「とんでもない、恐ろしいものだった」と批判。同党のジェス・フィリップス議員は、裁判所判決への首相の態度は国民からすれば「とんでもない」もので、謝罪すべきだと求めた。

政府による議会閉会についてスコットランドの法廷に判断を仰いだスコットランド国民党(SNP)のジョアナ・チェリー議員は、「まるで安っぽい独裁者のような、大衆に迎合する暴言」を聞かされたと非難した。

SNPの下院院内代表イアン・ブラックフォード議員は、「この首相は信用できない。これ以上、首相として続けさせてはならない。うそをつき、ずるをしてだまし、法治主義を損なうのをやめさせなくてはならない」と強い調子で述べた。

ジョン・バーコウ下院議員はこれを受けてブラックフォード氏に「うそをつく」という発言は議会規則に違反するため、取り下げるよう求めた。

しかしブラックフォード議員はさらに首相に対し、「首相、正しいことを今すぐしなさい。この独裁に終止符を打ち、今すぐ辞任してはどうか」と呼びかけた。

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労働党のポーラ・シェリフ議員は、ジョンソン首相が合意なし離脱を排除する法律を「降伏法」と呼び、自分に反対する議員たちについて国民への「背信」「裏切り」などという「扇動的」で「危険」な表現を使い続けることで、多くの議員を危険にさらしていると危機感を示し、首相に言葉遣いを改めるよう求めた。シェリフ議員は、2016年の国民投票の直前に、残留派だったジョー・コックス議員(労働党)が極右思想の男性に殺害されたことを思い起こすよう、首相に呼びかけた。

ジョンソン首相はこれに対して、「そんなたわけた話は生まれて初めて聞いた」と反論した。

故コックス議員の殺害後に同じ選挙区の後任議員として当選したトレイシー・ブラビン議員(労働党)も、「誰もが安全な気持ちで職務を遂行できるよう」首相に言葉遣いをやわらげるよう求めた。

これに対してジョンソン氏は、「ジョー・コックスを追悼するには何より、そしてこの国をまとめるには何より、ブレグジットを実現することが一番の方法だと思う」と答えた。

コックス議員はブレグジットに反対していた。夫のブレンダン・コックス氏はツイッターで、「ジョーの名前がこんな形で使われて、いささか気持ちが悪い。彼女をたたえる一番の方法は(どういう立場だろうと)自分の信じることのために情熱をもって断固として立ち上がることだ。しかし決して相手を悪者扱いしてはならないし、みんなで共有しているものを常に大事にしなくてはならない」と書いた。

首相の発言を受けて多くの野党議員が、自分たちは日常的に殺害予告などを受けて脅されているのだとツイートするなど、反論した。

(英語記事 Boris Johnson says Supreme Court 'wrong' to rule on Parliament suspension