確かにウクライナ疑惑が出てから、米国の各種世論調査で、トランプ氏弾劾に賛成する意見が、平均して10%近くも増えている。しかし、実はロシア疑惑が沈静化する前の水準に戻ったに過ぎず、そして弾劾に賛成の意見と反対の意見は、いずれも45%前後で拮抗(きっこう)したままなのである。

 特に無党派層の間で反対が賛成を数%でも上回っていることは大きい。良識ある米国人は弾劾騒動による政治の停滞を望んでいないのである。

 それは民主党も分かっている。特に激戦選挙区選出の議員は、トランプ弾劾の手続きを進めることに不安を感じている。

 これは実はロシア疑惑が最も激しく報じられていたときも同じだった。だから民主党のペロシ下院議長も、トランプ氏弾劾には一貫して反対してきた。

 ところが今回は早々に弾劾調査を始めると宣言した。その理由は何か?

 一つには民主党内の分裂が大きくなったことが上げられるだろう。例えば今回の問題でバイデン氏に同情が集まり、来年の予備選挙で有利になりそうになれば、その他の候補者などにとっては望ましくない。

 そのためかペロシ氏は下院としての弾劾調査を宣言しただけで、下院司法委員会による正式の弾劾調査を開始していない。それは非常に時間と労力が掛かり「国政を停滞させた」という国民からの批判を受ける恐れがある。

 またペロシ氏は、2020年大統領予備選が始まる前の、今年中には決着をつけたいとも言っている。クリスマスや感謝祭の休暇を考えると7週間くらいしか時間がない。それで十分な調査ができるだろうか?

 ペロシ氏は党内の「ガス抜き」のために下院としての弾劾調査を宣言しただけで、実際に弾劾裁判を始めるつもりはないのかもしれない。いずれにしても上院で3分の2の多数を必要とする大統領弾劾が実現する可能性は低いだろう。

 では繰り返すが、なぜペロシ氏は、トランプ氏の弾劾調査を下院として始めたのだろうか?

 それは以上のような問題以前に、バイデン氏には後に述べるものも含めて他にもいくつもの疑惑があり、それは前述のようにロビイスト会社などを通じて、クリントン家に結びつくものもある。また国務省は今、ヒラリー・クリントン氏の電子メール疑惑の再捜査の追い込みに入っている。
ヒラリー・クリントン米上院議員(クリントン前アメリカ大統領夫人)UPI=共同
ヒラリー・クリントン米上院議員(クリントン前アメリカ大統領夫人)UPI=共同
 前述のようにウクライナの検察関係者からの通報を司法省は無視している。今回のウクライナ疑惑も内部告発によって発覚したが、その内容は伝聞に基づくもので、そもそも伝聞に基づく内部告発は取り上げない規則だったはずなのである。

 そのため告発を受けた国家情報長官が、これを議会に取り次ぐ必要がないと考えたのも、間違いだったとは言えない。ところが告発が行われる直前に規則が改正され、伝聞による内部告発も有効になるようにされてしまっていた。