これまでの行政による避難情報には、具体的な避難場所を決めず「とりあえず逃げろ」という避難勧告はありませんでした。それぐらい、東京で起こる水害には切迫性があって危険性も高いため、とにかく安全な高台地域に逃げることが先決なのです。

 本来であれば、災害が起きた場合「自分の命は自分で守らなければならない」はずです。しかし、多くの日本人は「私は大丈夫」という「正常性バイアス」に陥っているのです。

 水災害に対して、当然抱くはずの危機意識が希薄なことが、犠牲者を増やしているのです。平成30年7月の西日本豪雨における避難率を見ても、行政による避難の呼びかけを無視している人がほとんどだったといえるでしょう。

 日本の災害対策基本法には、国民の生命・財産を守る責務は、国と都道府県、市町村にあると記されています。第60条には、避難指示は市町村長が発令すると決められています。

 今まで、実質的に災害対応を行ってきたのは行政だけだったわけです。治水対策として堤防を造り、ハザードマップを作成し、避難所を設置するのも全て行政が担ってきました。

 一方で、国民はお客さま状態です。何もかも行政がやってくれると思っています。自分の命まで役所任せにしてしまっているようでは、自分の命は守れません。

 自分の命だけではなく、家族や地域の命、そして日本の社会を守るという観点から、地域社会やコミュニティーを強固にしなければなりません。地域力の復活が何としても必要です。そのために求められるのは、防災を目的として、新たにコミュニティーをつくるといった発想の転換です。

 どんなに精密なハザードマップを作ったとしても、実際に住民が避難行動を起こさなければ、自分の命も守れないし、地域の人命も救えないのです。コミュニティーの再生こそ、一番の防災対策になるのです。

 そのようななかで、江東5区の一つ、江戸川区が11年ぶりに改訂した「水害ハザードマップ」が注目を集めました。区内全世帯に配布されたマップには、洪水や高潮によって荒川と江戸川が氾濫すると、ほぼ区内全域が浸水するという最悪の想定が示され、被害発生前に、区外に避難をするよう区民に求めています。
江戸川区が公表した水害ハザードマップの冊子表紙の挿絵(江戸川区提供)
江戸川区が公表した水害ハザードマップの冊子表紙の挿絵(江戸川区提供)
 表紙に描かれた地図には、江戸川区に「ここにいてはダメです」と太字で書かれていて、この率直な表現が「あまりにも潔すぎる」として、大きな反響を呼んでいます。具体的には、江戸川区のほぼ全域が浸水し、建物の3階から4階に当たる5メートル以上の浸水が発生する地域もあるとされたほか、区内の広い範囲で1~2週間以上の浸水が続くとしています。