2019年10月02日 15:54 公開

マット・マクグラス環境担当編集委員

東日本大震災の津波が到達した地域で、今後、新たな感染症が流行するかもしれない――。クリプトコッカス症などの病原菌が、大地震による津波で世界各地に拡散されていたとする学説が1日、科学ジャーナルで発表された。

米メリーランド州ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院の研究チームと、非営利の米遺伝子研究所「Translational Genomics Research Institute」が、オープンアクセス科学ジャーナル「mBio」で発表した学説によると、1964年に米アラスカ州で発生した大地震による津波で、熱帯地域に分布する病原菌が北米大陸北西部沿岸に打ち上がったという。

研究者は、こうした真菌が同地域の沿岸や森林で生き延びるために進化を遂げたと考えている。

同地域では、これまでに300人以上が肺炎に似たクリプトコックス症にかかっている。症例が最初に確認されたのは1999年で、死亡率は約10%だという。

この学説が正しければ、これまでに津波被害を受けたほかの地域にも影響があるとみられる。

クリプトコックス症の原因菌クリプトコッカス・ガッティー(Cryptococcus gattii)は、オーストラリアやパプアニューギニアといったより温暖な地域を中心に、欧州やアフリカ、ブラジルの一部地域にも分布している。

研究チームは、この真菌が船舶のバラスト水(船底に積む重しとして用いられる水)を介して、世界各地に運ばれたとの学説を立てた。

研究によると、カナダのブリティッシュコロンビア州や米ワシントン州沿岸部で見つかった菌の分子時計(進化過程で分岐した年代を推定したもの)が、南米からの船による輸送が始まった時期と一致しているという。同地域からは1914年にパナマ運河が開通して以降、盛んに輸送が行われていた。

さらに興味深いことに、この菌の人への感染が初めて確認されたのは1999年と、空白の時期が存在することだ。

研究チームは、どのように人へ感染したのか疑問に思った。通常の感染ルートであれば、胞子を吸い込むことで菌が肺に入り込む。

今回の最新の研究では、北米大陸北西部の沿岸近くの森林の中で、菌がどのように広く拡散したのかについて、2人の科学者が斬新なアイデアをあげている。

それは、1964年に米アラスカ州で発生したマグニチュード9.2の大地震が重要な役割を果たしていたというものだ。

同州南東部プリンス・ウィリアム湾を震源とするアラスカ地震は、北半球で観測された最大クラスの地震のひとつ。

この地震による津波は、ヴァンクーヴァー島や米ワシントン州、オレゴン州を含む同地域沿岸部に達した。

この津波によって、菌は砂地や木々が広がる陸地へと運ばれた。そして、生物学的および物理的に優れた菌が残り、感染力や病原性が増したと考えられるという。

「クリプトコッカス・ガッティーは、海水にさらされている間に、人への感染能力のほとんどを失ったのかもしれないという説を提唱する」と、研究の共同著者の、ジョンズ・ホプキンス大学のアルトゥロ・カサデヴァル博士は述べた。

「しかし菌が陸地へ到達すると、アメーバや土壌生物が作用し、生物や人へのより強い病原性を持つクリプトコッカス・ガッティー変異体が誕生した」

研究チームは津波について、危険性のある真菌株を運び、生存者の肌の炎症や肺感染症を引き起こすことで知られていると主張。今後数年の間に、2004年のスマトラ島沖地震や2011年の東日本大震災による津波の影響で、別の感染症が出現するのではないかと懸念している。

カサデヴァル博士は、「津波が、病原体が海や河口から陸地へ到達し、やがて野生生物や人へ感染するという重要なメカニズムかもしれないというのが、重大な新しい考えだ」と述べた。

「この仮説が正しければ、2004年のスマトラ地震の津波や2011年の東日本大震災の津波が到達した地域でもいずれ、クリプトコッカス・ガッティーなどによる同様の大流行が起きるかもしれない」

(英語記事 Tsunamis linked to deadly fungal disease