2019年10月03日 12:41 公開

イギリス政府は2日夜、欧州連合(EU)離脱に向けた新たな協定案を発表した。メイ前政権による協定で懸念材料となっていた、アイルランドと北アイルランドの国境に関わる「バックストップ条項」に代わる案も盛り込まれている。

7ページにわたる新協定案では、北アイルランドは欧州単一市場にとどまるものの、関税同盟は離脱するとしており、国境間の流通では新たな税関検査が必要となる。

北アイルランドの立場については、北アイルランド議会が真っ先に、採決の機会を得る。さらにその後も、4年ごとに更新するかを投票で決めることになる。

イギリス政府はすでにこの協定案をEUに示しており、ここから10日間にわたる集中協議で、17日のEU首脳会議(サミット)までに最終合意にたどり着きたい考えだ。

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イギリスは10月31日にEUを離脱する予定だが、テリーザ・メイ前首相が取りまとめた協定は英下院で否決されている。このため現在、イギリスとEUの間には離脱に関する取り決めがない。

英議会は9月、合意なしブレグジット(イギリスのEU離脱)を阻止するため、10月14日までに協定が下院で承認されない場合はEUに離脱延期を要請するよう首相に義務付ける法案を可決した。

一方、10月31日の離脱期限を死守したいボリス・ジョンソン英首相は2日、与党・保守党の党大会で、協定合意以外の選択肢は合意なしブレグジットしかないと強調している。

新協定案の内容は?

ジョンソン首相は新協定案の中で、メイ政権の協定に含まれるバックストップの代替案を提示した。

バックストップとは、イギリスとEUとの間で通商協定がまとまらない場合に、北アイルランドとアイルランドの国境に厳格な検問所等を設置しないための措置。バックストップが発動すると、北アイルランドはブレグジット後もEU単一市場のルールに従うことになるため、ジョンソン首相を含む反対派は、EU離脱後もイギリスがなおEU法に縛られるとして反発している。

バックストップの代替案の内容は以下の通り。

  • 北アイルランドは残りのイギリスと同様、2021年からEU関税同盟を離脱する
  • 一方、北アイルランド議会の承認が取れた場合、北アイルランドでは引き続き、農産物などについてEU法を適用する。首相はこれを「アイルランド島の規制域」と呼んだ
  • この取り決めは理論的には恒久的なものだが、北アイルランド議会で4年に1度、継続の是非を問う
  • イギリス・EU間の税関検査は「非中央集権化」される。書類は電子で処理し、物理的な検査は「非常に少ない数」にとどめられる
  • 税関検査は企業の敷地内や「サプライチェーン上の別の場所」など、国境から離れた場所で行う

政府はまた、一連の変更をめぐる財政支援を含めた「新北アイルランド合意」を約束した。

EU側の反応は?

欧州委員会のジャン=クロード・ユンケル委員長宛の書簡でジョンソン首相は、新しい協定案は「EUを離脱するというイギリス国民の決定を尊重するとともに、北アイルランド・アイルランド間の問題を現実的に取り扱っている」と書いた。

これに対し欧州委員会は、事態に進展があったものの「問題」は残っていると指摘している。

ユンケル委員長は、一部領域に「前向きな前進」があったことを歓迎した一方、イギリス側が提示したアイルランドをめぐる新「統治」システムには「問題があり」、関税ルールにもなお懸念が残ると述べた。

アイルランドのリオ・バラッカー首相は、新たな協定案は、EU単一市場を維持し、北アイルランドの平和を保護し、アイルランドとの経済協力を支援するという点では「バックストップで合意した内容を全てカバーしていない」と指摘。その上で、合意は必要だとして協議を継続すると話した。

ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、EUはイギリスからの提案を注意深く精査すると話した。

また、欧州の一致を維持するという点ではEU側の首席交渉官ミシェル・バルニエ氏を「信頼している」と述べた。

イギリス国内の反応は?

北アルランドの民主統一党(DUP)のアーリーン・フォスター党首は政府の新協定案を支持すると表明。イギリスの他地域と同様に関税同盟と単一市場を離脱できると話した。

また、保守党内でメイ前首相の協定に反対していた議員からも支持の声が上がっており、離脱派のスティーヴ・ベイカー議員は「用心はするが楽観的」だと述べた。

一方、北アイルランドのシン・フェイン党はこの協定案は「成功の見込みがない」と一蹴。DUPは北アイルランドの「住民の利益に反して動いている」と批判した。

最大野党・労働党のジェレミー・コービン党首も、新協定案は「受け入れられないもの」で、ベルファスト合意(イギリスとアイルランドの和平合意)が損なわれている時点で、従来の協定よりも「悪くなっている」と反発した。

EU残留派の野党・自由民主党は、この協定案では北アイルランド経済が「大打撃」を受けると指摘。スコットランド国民党(SNP)は「見掛け倒しの提案」だと批判している。

このほか、2度目の国民投票を行わない限りは新協定案を受け入れられないとする議員もいる。


<分析>カティヤ・アドラー欧州編集長

ジョンソン首相の示した新協定案は、北アイルランドとアイルランドの間に何らかの税関手続きを盛り込むなど、EUが受け入れないとしている一線を越えている。しかし、EUがただちにこの案を拒否するとは考えない方がいい。

欧州委員会のユンケル委員長は2日、協定案の内容に「懸念」があると話したが、EU各国の首脳は、自分たちが合意への道を閉ざしたとは思われたくないのだ。

一連のブレグジットの手続きで、EU首脳は繰り返しイギリス側にボールを蹴り返してきた。

そのたびに「イギリス政府からの提案を歓迎する」と述べ、首相を交渉の席に招き、協議を続けた。

EU側が抱く根本的な疑問は同じだ。「ジョンソン首相はどれだけ本気で、合意をまとめたいのか」。そして、「首相は『この協定か合意なしか』という姿勢を、変える用意はあるのか」。

もしジョンソン首相に姿勢を変える気持があるなら、交渉の余地はある。変える気がないなら、EUとしては「ではこの話はなかったことに」と交渉を打ち切る側に自分たちがならないよう、懸命に努力するだろう。

ドイツを含め複数のEU加盟国にとって、合意なしブレグジットは失うものが大きい。しかし、だからといってEU諸国がアイルランドを説得し、この協定案を了承させようとするかというと疑問だ。もしそれをジョンソン首相が期待しているなら、考え直した方がいい。

ドイツのメルケル首相は2日、EU首脳は一丸となってこの問題に当たるべきだと話した。イギリスという重要な加盟国が去ろうとしている今、メルケル氏は加盟国の一致こそが最重要と考えているのだ。


(英語記事 Government publishes new Brexit proposals