渡邉哲也(経済評論家)
吉川圭一(グローバル・イッシューズ総合研究所代表)

 渡邉 今、米中貿易戦争が大きな話題になっていますが、この根底には世界の大きな覇権争いが存在するわけです。どういうことかと言えば、中国はアメリカに対して太平洋の分割を迫り、覇権国家であるアメリカの体制を壊そうとした。それに対してアメリカ側は安全保障上の問題も含めて現代戦に持ち込みました。大量破壊兵器が生まれた現代としてはかつてのようないわゆる武力だけの紛争ではなく、経済も大きな戦争の要因になっている。だからよく米中貿易戦争という言葉がありますが、正しくは「米中戦争貿易版」と考えた方がよいでしょう。

 そしてアメリカとソ連の冷戦終結後、グローバリズムが世界に広まっていきましたが、これは、モノ、カネの移動の自由ということです。グローバリズムとは、一つのルールで世界が動くことを意味しますが、中国はその自由側社会、つまり西側社会に入ってくるとき、西側社会のルールのもとで活動すると言っていたのに、実際は資本移動の自由どころか、国有企業の改革もしなかった。結局、開発独裁型の経済をそのまま維持し、しかもそれが軍事と連動しているので、アメリカは圧倒的に不利なわけですね。あくまで中国は自分たちのルールでやっていますからね。

 例えば日本やアメリカの企業が完全な民間資金でビジネスをやっている一方で、中国企業はバックに国がついていていくらでも資金が調達できる。これを同じ土俵で戦えるかというのがアメリカ側の言い分なわけです。中国は世界貿易機関(WTO)に入るとき、完全な資本の自由化と、国有企業をなくして民営化していくと言った。でも、それを守っていない。また、国際通貨基金(IMF)からの特別引出権(SDR)についても為替の自由化を約束しておきながら、これもやっていない。人民元は管理変動相場制で管理するかたちで、いわゆる人民元レートを自由に移動できる、自由に調整できるから好きなようにビジネスができる。こういうような状況なわけですね。

 これに対して改善しろと言っているのがアメリカですが、それをすると崩壊に面している中国のバブルがもうもたないという中で、さてどうするかというのがこの米中貿易戦争の始まりだと思いますね。

 吉川 まさに渡邉さんのおっしゃる通りで、やはりトランプ大統領の登場を見ていると、冷戦時代に当時のキッシンジャー国務長官が中国と協力してソ連の包囲網をつくったように、今の状況ではロシアと協力して中国を封じ込めないといけないという視点が生まれました。ただ、既存のワシントンの政治家や官僚が、冷戦思考から抜けきれず、特にウクライナのクリミア問題以来、反ロシアで固まってしまっている中で、「ならばトランプさん、君やらないかね」というような空気になったことも、トランプが大統領になるきっかけだったと、私は思いますね。

 渡邉 そうですね。いわゆる新たな冷戦の始まりを米中の間において言えば、南シナ海における「航行の自由作戦」の本格化ですから、2010年あたりからですよね。それでいわゆる米露に関してはウクライナ問題が2014年の2月、ソチオリンピックの直後です。この二つによって世界の分断が始まったと言えますね。そして、それが「鉄のカーテン」なのか、いわゆる「竹のカーテン」なのかと、最近よく言われますが、もちろんかつての冷戦は「鉄のカーテン」で、これはアメリカとソ連。今、言われているのが「竹のカーテン」でアメリカと中国ですが、ロシアは今、どちらかというとフリーハンドの状況ですね。
中国経済の現状や先行きなどについて対談する渡邉哲也氏(右)と吉川圭一氏=2019年9月、東京都千代田区
中国経済の現状や先行きなどについて対談する渡邉哲也氏(右)と吉川圭一氏=2019年9月、東京都千代田区
 吉川 この前、尖閣諸島の上空を中国とロシアの爆撃機が飛行した際、中国側が飛ばしたのは最新鋭のものでしたが、ロシアが飛ばしたのは冷戦時の中古とは言わないけれども、それぐらい古い年式のものでした。私はこれを見て、やはり、ロシアとしては半身の構えなんだなと、使った爆撃機の性能からそう思いましたね。イスラムのテロ対策と称してロシアに相談もなくカザフに中国軍を送ったことも、ロシアの対中不信感の原因になっている。一方で、中国もプーチン大統領を取り巻く財閥などを信用していないので、ロシアに本気で投資をしていない。

 渡邉 中国とロシアは、そもそも国境に面して互いに敵対していますが、敵対していることを表に出さないという空気があります。今の北朝鮮情勢もそうですが、中国とロシア、どちらもどっちつかずで動いているじゃないですか。

 吉川 私はどちらかというと、北朝鮮は、今はもうロシアに近く、金正恩朝鮮労働党委員長は習近平国家主席が叔父や兄を使って自分を排除しそうになったから、叔父や兄を殺したと聞いています。北朝鮮のミサイルの技術などは明らかにロシア製ですからね。