2019年10月04日 15:07 公開

美土路昭一(みどろ・しょういち)

「3兄弟全員トライ」というワールドカップ記録をつくって注目を集めたニュージーランド代表3選手は、ピッチの外でも輝ける活躍を見せている。

カナダに63-0で圧勝したニュージーランド代表オールブラックス。2日に大分スポーツ公園総合競技場で行われた試合で話題を集めたのが、オールブラックスの「バレット3兄弟」のそろい踏みだった。

この大会ではフルバックを務めるボウデン・バレット(28歳)、ロックのスコット・バレット(25歳)、ウイングのジョーディー・バレット(22歳)の3人は、オールブラックスとして初の3兄弟同時先発を果たしただけでなく、大会史上初の3兄弟全員トライも記録している。

そのバレット3兄弟が大会前の今年8月、ある取材に応えた。


ダウン症への意識高める

Barrett family share emotional story of sister with Down syndrome」というニュージーランドメディアの記事で、バレット家はボウデンら8人きょうだいの1人、ザラ(16歳)がダウン症だと明かしている。彼女の存在をクローズアップする取材を受けたのは、ダウン症に対する社会の意識を高めるためだった。

ダウン症では言葉の発達の遅れがみられるが、ザラの場合、大家族という環境が好影響を与えているという。

ニュージーランドでは通常、1対1の言語療法を受けるには高額の費用がかかり、公的な助成はない。

ザラを通じてダウン症についての理解を深めた一家は、言語療法の費用を援助するために募金活動に取り組む団体「UpsideDowns」を支援している。

上記記事のビデオの中で、ボウデンは「会話の中で、社会の中で、自分がその一員だと感じられるために、言葉はとても大切」と話す。そして、ジョーディーは「(障害がある人もない人もともに生きる)インクルーシブネスがダウン症をもつ人にとって極めて重要」と強調している。

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スーパーファン

一方、日本代表と9月28日に対戦したアイルランド代表には「スーパーファン」と呼ばれる女性がいる。

ジェニファー・マロウン。10代の彼女もダウン症だ。

アイルランド共和国の首都ダブリンから西に50キロ強のキルデアに住むジェニファーは、アイルランド代表だけでなく、アイルランド島南東部の地域代表を母体としたクラブ「レンスターラグビー」の熱烈なファンだ。

テストマッチだけでなく、自宅から40キロ弱のところにあるアイルランド代表の練習拠点にもしばしば訪れる。さらに、母親のダナらと国外の試合にも応援に出かけ、選手やスタッフにもよく知られた存在だ。

昨年5月、アイルランドがロンドン郊外のトゥイッケナム競技場でイングランドを破り、シックスネーションズで9年ぶり3度目のグランドスラム(全勝優勝)を果たした試合にも、ジェニファーはいた。

「私たちの一員」

試合後、人気のなくなった観客席で選手を待つジェニファーのところに、アイルランド代表の中心選手、フランカーのピーター・オマホニーが、シックスネーションズの優勝トロフィーを手にロッカーから出てきた。日本戦に背番号「6」を着けて先発出場し、ブリティッシュ・アンド・アイリッシュライオンズにも選ばれている選手だ。

オマホニーはトロフィーを挟んで二人で記念写真を撮ると、さらに、グランドスラムを達成した時に贈られるメダルをジェニファーの首にかけた。

翌朝、ダナはジェニファーを連れてチームホテルを訪れ、一度はメダルをオマホニーに返した。しかし、しばらくして戻ってきたオマホニーはメダルをジェニファーにプレゼントした。驚くドナに、オマホニーは「彼女は私たちの一員だから」と話したという。

ジェニファーはダナとともに今回のワールドカップのために来日。アイルランド代表と再会を果たし、スコットランド戦を観戦して、楽しい思い出とともに帰国した。

スポーツが社会に対してできることは、決して、感動的な試合で勇気を与えるだけではない。率先して誰とでも分け隔て無く仲間になる――ラグビー選手が得意とするこの行動は、社会貢献にも役立っている。(文中敬称略)

※アジア初開催ラグビーW杯。BBC NEWS JAPANでは日本戦や注目試合の結果をお伝えするとともに、ラグビーを長年取材してきた美土路昭一氏のコラム<美土路の見どころ>を不定期に掲載しています。


美土路昭一(みどろ・しょういち) 朝日新聞記者(ラグビー担当)としてラグビーW杯1995南アフリカ大会を取材。元日本ラグビーフットボール協会広報・プロモーション部長。早稲田大ラグビー部時代のポジションはSH。1961年生まれ。