英国の環境大臣も彼女の行動を支持するなど多くの政治家にも支持の広がりがあるが、テリーザ・メイ英首相は、トゥーンベリの行動を評価していないようだ。2月に首相の広報官は英国で行われた学校ストライキを批判している。

 「ボイコットにより教員の仕事量は増加しているし、教員が時間を掛け用意した授業時間を無駄にしている」。議会でトゥーンベリの訪英が紹介された際にはメイ首相は歓迎と答えているが、英国議事堂に招かれ昼食を挟み議員と会談した際には、メイ首相は欠席したと報道されている。

 メイ首相は、学校をボイコットすることに良い感情を持っていないように思われるが、トゥーンベリの主張そのものも、我々は良く考える必要があるようだ。

 トゥーンベリは、政治家は科学に耳を傾けないと主張しているが、気候変動の科学は地球の気温が2度上昇すれば壊滅的な影響が発生するとは言っていない。気候変動の問題については分からない点も多く、温室効果ガス、二酸化炭素濃度がどこまで上昇すれば地球の気温が何度上昇するか、さらにその影響として何が起こるか、シナリオは様々だ。

 温室効果ガスの濃度が上昇すれば地球の気温が上昇することは、気候変動に係る大多数の科学者は同意するが、具体的な上昇温度、その影響についての断定はない。一致点は2度上昇すれば大きな影響が生じる可能性が高いということだけだろう。可能性が高いリスクに我々は、どこまで対策資金を投入できるのだろうか。何かを達成しようとすれば何かが失われるトレードオフの関係も考える必要がある。

 米国の研究機関ピューセンターが昨年春世界各地で行った「今日世界の脅威は何か」との調査によると、フランス人の最大の関心事はイスラム国(87%)だが、次いで気候変動(83%)にも高い関心を示している。フランスでは、気候変動対策としてガソリン、軽油への課税が行われているが、その値上げに多くの国民が反対し「黄色ベスト運動」が発生した。気候変動を脅威と感じていても、その対策により日々の生活に影響があるとなれば、多くの国民は納得しない。

 生活水準が高い先進国においても、気候変動対策を進めるためのトレードオフに国民の理解を得ることは難しいが、生活水準が低い途上国において化石燃料の消費抑制、温室効果ガス削減を進めるとなると生活水準の向上を国民は諦めることを強いられる。例えば、まだ無電化地区を多く抱えるアフリカの多くの途上国政府が進められる政策ではないだろう。
2019年9月23日、米ニューヨークの国連児童基金(ユニセフ)本部で記者会見するグレタ・トゥンベリさん(右)(共同)
2019年9月23日、米ニューヨークの国連児童基金(ユニセフ)本部で記者会見するグレタ・トゥンベリさん(右)(共同)
 このトレードオフの問題をどのように乗り越えるのか、世界の多くの国は悩んでいると言える。直ちに対策をしないと絶滅するとの主張だが、対策を進めた結果世界全体が貧しくなることも大きな問題だ。給与も、生活水準も下がることには多くの人は反対だろう。

 学校ストライキとして授業をボイコットしているが、ユネスコによると世界には学校に行けない子供が2億6300万人、行きたくても小学校に行けない子供だけでも6100万人いる。気候変動問題も大切だが、世界の生活水準と教育水準を引き上げることは、もっと重要ではないのだろうか。全てを達成する魔法はないことを良く考える必要がある。

やまもと・りゅうぞう 常葉大学経営学部教授。住友商事地球環境部長等を経て現職。経済産業省地球温暖化対策技術普及等推進事業審査委員会、東京商工会議所エネルギー・環境委員会委員などを務めている。近著に『電力不足が招く成長の限界』(エネルギーフォーラム)。