減少理由として考えられるのが、「在籍中の学費負担と劣等感」「大学教員への不信感」、そして卒業後の就職難を含む「博士課程のキャリアの不明瞭さ」の3点である。

 まず、「在籍中の学費負担と劣等感」から分析してみよう。言うまでもなく、博士課程に進学して、在籍もしていれば、その分学費がかかる。

 そのうえ研究も、となるとアルバイトする時間もままならない。そうなると、奨学金に頼るしかなく、学部時代から通算9年(学部4年、修士2年、博士3年)受け取ると、1千万円を軽く超えてしまう。

 会社員であれば、数千万円の住宅ローンを利用しても「家族のために」というモチベーションがあるだろう。それに社会人経験があれば、「在籍経験が転職市場でも評価されるはず」という見通しも立てられる。

 その点、博士課程に奨学金を利用して進学した場合はどうか。後述するが、就職難の中で返済できるかどうか、はっきりした見通しが持てない。そうした中で、数百万円から1千万円強の奨学金の返済残高を残しても平静でいられる学生はそう多くないだろう。

 仮に奨学金を利用しなかったとしても、就職できるかどうか不安感が残るのは否定できない。さらに、見逃せないのが劣等感である。

 博士課程を修了するのは20代後半から30代前半の年代だ。この年代は民間企業だと主任・係長から課長クラスにまで昇進し、大手企業であれば年収が1千万円を超えていることもある。
ノーベル賞化学賞を受賞した吉野彰氏が出身の京都大学=2019年10月9日(永田直也撮影)
ノーベル賞化学賞を受賞した吉野彰氏が出身の京都大学=2019年10月9日(永田直也撮影)
 その間、博士課程の在籍者はどれほど稼いだとしても、数百万円程度にすぎない。事実、大学院生を取材すると、同年齢の友人や知人に対する劣等感が強いことが明らかだ。

「実家に帰ると、父親がプロ野球を見ながら『●●は高卒であんなに活躍して稼いでいる。お前は10年も大学に行きながら、ろくに稼がないで』とぼやかれる。居場所がないから、実家に帰るのをやめた」
「30歳のとき、高校の同窓会に出たら、民間企業の就職者は『車を買った』『時計を買った』『今度結婚する』などと、うらやましい話ばかり。どこそこの塾はいいとか悪いで盛り上がっているグループもあった。その点、自分は何もなくて、辛かった。しかも、2次会、安い居酒屋に行こうとしたら『えー、せっかく久々に会ったのだから、ちょっといいところ行こうよ』と言われて高い店へ。あわてて用ができた、と帰ってきた」