著者の専門分野に話を移そう。情報系、工学系では、日本の優位がまだ残っている分野と、日本が完全に後れてしまっている分野がある。まだアドバンテージがあるのはハードウエア分野である。もちろん、ここでも日本の優位性は小さくなっているのは事実である。筆者の専門分野の一つである電子ディスプレイについても、10年前までは日本企業に存在感があったが、民主党政権が超円高政策で日本の製造業に致命的なダメージを与えて以降、産業の中心は韓国、台湾、中国にとって代わられた。

 しかし、研究については日本もまだある程度勝負できている。最大の理由は、国内に優良な部品を作れる中小企業がたくさんあることだ。これが、新しい実験装置や試作機を作るのに非常に役立つ。筆者自身、国際会議などで「お前の使っているこの部品はどこで購入できるのか?」と聞かれることがよくある。ハードウエア分野の研究力を維持する上で、日本の国内の中小製造業がもつ技術やノウハウは、今後も大事に守っていく必要がある。

 一方、ソフトウエアについては、日本は完全に後れをとっている。今流行の人工知能分野でも、米国勢や中国勢が先行しており、日本は全くついていけていない。筆者の専門分野の一つに人工知能を使った医療画像自動診断があるが、同分野のトップカンファレンスである「MICCAI」でも、昨年の会議における中国、韓国からの参加者数が全体の4位、5位を占める一方、日本はトップ10にも入っていない。

 発表件数も全体で300件以上ある中、日本からの発表は筆者を含めて1桁にとどまっている。今年開催された腎臓がんの自動検出の国際コンペにおいても、106の参加チーム中、中国からの参加が半数以上を占めた。トップはドイツチームだったものの、中国チームも多数上位に食い込んでいた。筆者を含む研究グループは、日本からの参加チームの中ではトップだったが、中国の上位勢には及ばない状況である。

 今の中国は、人工知能以外でも、宇宙、エネルギー、計算機など、軍事的優位を築くことに資する研究分野に重点的に投資をしている。これまでの米国の戦略と同じである。一方、日本はというと、ご存じの通り、日本学術会議の声明の影響で、多くの主要大学で防衛装備庁の安全保障技術研究推進制度に学内の教員が応募できない状態である。
中国のIT企業が展示した人工知能による顔認証技術=2018年11月、中国浙江省烏鎮(共同)
中国のIT企業が展示した人工知能による顔認証技術=2018年11月、中国浙江省烏鎮(共同)
 今関心を集めている自動車の自動運転技術も、米国では米国防高等研究計画局(DARPA)のグランド・チャレンジで、スタンフォード大学、カーネギーメロン大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)などの名門大学が技術を磨いてきた歴史がある。そうした軍事技術の積み上げは、当然民生への応用を考える場合も大きなアドバンテージになる。防衛関係の研究を大学が禁じる日本が、軍事研究に力を注ぐ米国や中国に太刀打ちできないのは当然である。