2019年10月11日 12:38 公開

シリアのクルド人民兵組織に対し軍事攻撃を行っているトルコ軍は10日、シリア北部の国境の町、ラアス・アルアインとタル・アブヤドを包囲した。この地域からの避難者は数十万人に上る可能性があると、救援団体は懸念している。

軍事攻撃をめぐり、国際社会からはトルコへ対する批判が高まっている。

大きな懸念の1つは、クルド人部隊が支配するこの地域で拘束されている、過激派勢力「イスラム国」(IS)の戦闘員だった疑いのある数千人の捕虜が、トルコの攻撃に乗じて逃げ出す可能性があることだ。捕虜の中には多くの外国人が含まれる。

トルコは、テロリストに指定しているクルド人民兵組織「人民防衛部隊(YPG)」を、国境地域から完全に排除して「安全地帯」を確保したい考え。シリア内戦などでトルコ領内に避難してきたシリア難民360万人のうち、最大200万人をこの安全地帯に移住させたいとしている。

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軍事作戦の影響

NGO「国際救済委員会」(IRC)によると、すでに6万4000人が避難したと報じられている。英国に拠点を置くシリア人権監視団も、同様の数字を公表した。

IRCのミスティ・バズウェル氏は、「軍事作戦が続けば、計30万人もの住民が、すでに拡大しすぎている難民キャンプや、ISとの戦闘からの復興が続く町へ移ることになるかもしれない」と述べた。

「マーシー・コープ」など14の人道支援団体は、避難民の数は45万人にのぼる可能性があると警告した。

バズウェル氏は、IRCのチームはシリア北部での駐留し続けているとしている。一方で、複数報道によると、一部援助団体はすでに撤収している。

「安全な場所はない」

ラアス・アルアイン住民のセヴィーナス氏は10日、BBCの取材に対し、「私は、病気を患っている母と一緒に町の外に避難している。きょうだいは町に留まっている。私のいとこが死んだかもしれないと聞いた。誰にとっても安全な場所はありません。自分の町を目にするのがこれで最後になるのではないかと心配だ」と述べた。

トルコ軍による空爆を受け、国境の町カーミシュリから逃れたリザン・ムハンマド氏は、AFP通信に対し、「私たちは地方へ向かっている。新たな空爆や、衝突の激化が怖いので」と述べた。

錯綜する犠牲者の数

トルコのアナドル通信は17日、軍事作戦でクルド人部隊228人を「制圧」したと伝えた。

これに先立ち、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、クルド人部隊109人が死亡したと発表したが、シリア民主軍(SDF)は人数を誇張していると反論した。SDFは具体的な人数は明かさなかった。

シリア人権監視団によると、SDF戦闘員が少なくとも29人、トルコ寄りのシリア反体制武装組織「自由シリア軍」(FSA)戦闘員が少なくとも17人が死亡した。さらに、ラアス・アルアインとタル・アブヤドの10以上の村をがトルコ軍に占拠され、SDFが過酷な状況に置かれている可能性があるという。

SDFはツイッターで、トルコ軍を撃退した際に、軍事車両3台を破壊し、トルコ兵士22人を殺害したとしている。

クルド赤新月社によると、これまでに民間人11人が死亡、28人が重傷を負った。被害の多くはラアス・アルアインとカーミシュリに集中しているという。

トルコの町でも死者

シリアと国境を接するトルコのアクチャカレで取材する、BBCのマーティン・ペイシェンス記者によると、アクチャカレではクルドによる砲撃で生後9カ月のシリア人赤ちゃんを含む3人が死亡した。しかし、トルコ国内では今回の軍事作戦への支持が拡大しているという。

国際社会の反応

国連安全保障理事会はイギリス、フランス、ドイツ、ベルギー、ポーランドからの要請を受け、10日に緊急会合を開き、トルコによる軍事作戦について話し合った。

会合を要請した5カ国は、「シリア北東部での新たな武力行使は、地域全体の安定をさらに脅かし、民間人の苦しみを増大し、さらなる避難を誘発するだろう」としている。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、「深い懸念」を示した。

ケリー・クラフト米国連大使は、「弱い立場の人々を守るためのルールに従わなかったり、ISがこの軍事作戦を悪用して再結集することがないようにできなければ、影響が生じるだろう」と述べた。

これに先立ち、トランプ氏はツイッターで、トルコとクルド「双方と話した」、「トルコがルールに従わないのであれば、トルコには経済的に非常に激しい打撃と制裁を与える!僕はしっかり注視している」と述べた。

トランプ氏はその後、選択肢は3つあると新たにツイート。「数千の米兵を送り込み、軍事的勝利を収める。トルコに制裁を課して経済的に大打撃を与える。あるいはトルコとクルドの合意の仲裁をする」、そのいずれかだという。トランプ氏は記者団に対し、3つのうち「最後の選択肢になることを願う」と述べた。

エルドアン氏は、トルコの軍事作戦を侵略行為とみなすのであれば、欧州で受け入れている約360万人のシリア難民をシリアに送り返すと警告している。

トルコとクルド人、米の関係

アメリカを中心とした連合国がシリアでISを破ることができたのは、クルド人勢力の協力によるところが大きい。

YPGは、トルコ南部と国境を接するシリアで活動。SDFの大部分を占めており、SDFはアメリカ軍の支援を受けてイスラム過激派組織IS掃討に貢献した。

ところが、アメリカのドナルド・トランプ大統領は突如、シリア北東部からの米軍撤退を発表。トルコによるクルド人部隊への軍事作戦に関与しないとした。

米国務省高官によると、米軍はシリア国内に約1000人を派遣しており、そのうち20人以上が北部国境地域から撤退したという。

クルド人部隊は、米軍撤退を「裏切り」と呼び、IS復活を促進し、トルコからの攻撃にクルド人部隊をさらすことになると批判した。

米国内でも、熱心なトランプ支持者の共和党重鎮らから、米軍撤退によってトルコの軍事作戦を承認することになるとの声が上がっている。

(英語記事 Tens of thousands flee as Turkey steps up assault