筆者も2001年までの10年間、厚生労働省の労働問題研究所で働いていた。その研究所では、役員のほとんどが天下りであった。元事務次官の理事長は、毎月「海外視察」と称して公費で海外旅行をしていた。実態は観光、グルメ、ショッピング。他の天下りは、秘書相手に毎日囲碁をして過ごしていた。

 月に一回、「厚労省関連団体囲碁大会」が行われ、いろいろな天下り団体の役員が集まってきた。天下り団体は民間企業と違い、倒産の心配はないので経営判断は求められない。法人の収入は役所の予算同様に、現役の官僚たちが税金から取り分けてくれる。理事の肩書があっても仕事はなく、よほど本人がまじめで奇特な人物でない限り、ただの「高額の生活保護」であった。天下り役員の平均年俸は1964万円だった。

 これでは、経産省をはじめとする霞が関の官庁は、監督・規制をするというより、天下りで業界に「寄生」する官庁ではないか。

 電力会社への天下りは、警察からも多い。

 先ほどの内閣人事局の天下り調査によると、昨年度は、福井県警本部の刑事部長が北陸電力の福井支店付部長に、島根の刑事部長が中国電力の島根原子力本部調査役に、新潟の刑事部長が東北電力の新潟支店調査役に、宮城県警本部の総務部長兼仙台市警察部長が東北電力の人財部調査役に天下った。

 一昨年度は、青森の刑事部長が東北電力の青森支店調査役に、三重の刑事部長が中部電力三重支店長に、富山県警本部の警備部長は北陸電力の富山支店付き部長に、大分県警本部の生活安全部長が九州電力の大分支社渉外担当課長に、広島中央署長が中国電力のコンプライアンス推進部門調査役となった。2015年には富山県警本部の交通部長が関西電力の北陸支社参事に天下っている。

 関電の原子力事業本部は、本社直轄の組織であるが、高浜原発のある北陸地方にある。関電はこの警察OBに今回の贈賄や恫喝(どうかつ)について相談したことはあるのだろうか。そもそも、天下りの有無にかかわらず、警察や経産省に相談したことはあるのだろうか―。9日に本件を調査する第三者委員会が設置されたが、このことも明らかにしてほしい。

 森山元助役が関電役員に金品を配り、関電の工事を受注する会社から報酬を得ていたことは対価性が疑われるが、証明が難しく、立件できるかは微妙という。それでも同義的に許されないことである。

 けれども、電力業界に寄生する天下り公務員の多さを見ると、森山元助役だけを責めることはできない。霞が関の官僚たちは、組織的に、合法なやり方で電力業界に寄生している。森山元助役は、同じことを一人で、泥臭いやり方でやっただけである。

 そして、天下りの給料やばらまかれる賄賂は、税金や電気料金に上乗せされて消費者が負担させられているのだ。
金銭授受問題について多々見良三市長(右)に謝罪する関電社員ら=2019年10月9日、京都府舞鶴市北吸(撮影・永山裕司)
金銭授受問題について多々見良三市長(右)に謝罪する関電社員ら=2019年10月9日、京都府舞鶴市北吸(撮影・永山裕司)
 定年間近の公務員の身になれば、天下りはありがたい。しかし、東芝やNECといった大手企業も40代、50代社員の大幅なリストラをせざるを得ない社会経済状況の中、公務員だけがぬくぬくと働かずに高給を得られる天下りを放置してよいのだろうか。

 天下りという不公平な制度が国家の中枢で堂々と行われていることが、国民のモラルやビジネス倫理を引き下げているのかもしれない。菅原一秀経産大臣は、このことに気を留めて、関係者の処分と天下りの削減を含めた再発防止に取り組んでほしい。