重村智計(東京通信大教授)

 韓国の曺国(チョ・グク)法相が辞任した。就任からわずか35日目のことだった。曺氏の辞任もそうだが、韓国政治には必ず裏があって、陰謀と落とし所が待ち受けている。法相辞任会見と大統領声明で、真実は語られなかった。

 曺氏は自身と家族の不徳を国民に謝罪せず、大統領への感謝も見せなかった。文在寅(ムン・ジェイン)大統領もまた、国民を忘れてしまったようだ。

 2人の発言は、曺氏の更迭が突然であった事実を物語っている。その証拠に、後任も決まっていない。後任を決める時間もなかったのである。

 突然の辞任の理由について、日本経済新聞の恩地洋介記者は「ある革新系新聞社が実施した世論調査で文氏の支持率は32%にとどまった」が「報道は見送られた」と明らかにした。こうした事実は、普段から地道に取材していなければ入手できない。

 これまで革新系メディアの世論調査は、政権が有利になるように結果を操作した。だが、32%ではさすがに操作のしようもない。操作すれば、社内から漏れるため報道できなかったわけだ。

 韓国では、文在寅政権を支える「進歩派」「革新派」と呼ばれる左派の岩盤勢力が有権者の35%を占める一方、保守派の岩盤支持は25%程度とみられていた。それが、32%まで支持率が落ち込んだことは、左派岩盤層の崩壊を意味する。

 一方で、野党第1党の自由韓国党が支持率を35%に伸ばしてしまった。国民は曺氏に愛想をつかし、検察改革にも関心のないことが明らかになったため、文大統領は慌ててサムスンや現代自動車の視察に出かけ、経済対策を強調した。
2019年10月14日、法相の辞任を表明した後、ソウル市内の自宅に戻った曺国氏(聯合=共同)
2019年10月14日、法相の辞任を表明した後、ソウル市内の自宅に戻った曺国氏(聯合=共同)
 「曺国政局」第1ラウンドは明らかに文大統領の敗北で、検察の勝利だ。左派はデモと大集会を連日仕掛けることで朴槿恵(パク・クネ)政権を引きずり下ろし、政権を運営してきた。

 今度は、事件の指揮を執る尹錫悦(ユン・ソクヨル)検事総長を追い詰めるため、実際は10万人程度の「300万人集会」で検察庁前に陣取り、圧力を強めた。その上で、尹氏を「検察改革に応じなかった」として解任する計画だったが、保守勢力も数十万人の「300万人集会」やデモで対抗し、「曺国解任」を求めた。