2019年10月18日 16:24 公開

BBCリアリティーチェック(ファクトチェック)チーム

イギリス政府と欧州連合(EU)は17日午前、ブレグジット(イギリスのEU離脱)条件を定めた新しい離脱協定案に合意した。

あらゆる関係者が、EU離脱後にアイルランドと北アイルランドに「厳格な国境管理」を敷くことを避けようとしていた。検問所は武装勢力の標的になるおそれがあるからだ。

しかし、あらゆる関係者が受け入れられるような解決策を見つけるのは、非常に困難だった。

新協定案ではこの問題について、テリーザ・メイ前首相の離脱協定にあった「バックストップ」を削除し、新たな施策を設けた。一方、それ以外についてはほとんど同じ内容だ。

新しい協定案の重要なポイントを見ていこう。

<変更された点>

関税

イギリス全体がEUの関税同盟から離脱する。つまりイギリスは今後、世界各国と個別に通商協定を結ぶことができる。

法的には、北アイルランドとEU加盟のアイルランドの間に関税の境界線ができることになる。しかし、税関検査は北アイルランドの「玄関口」で行われるため、実際に関税の境界線が引かれるのはアイルランド島とグレートブリテン島の間になる。

グレートブリテン島から北アイルランドに入ってくる物品に対して、自動的に関税が課されることはない。

しかし、そこからさらにアイルランドへ輸送される「危険」がある物品については、関税を支払う必要がある。

この「危険」については、イギリスとEUの代表による共同作業部会が後ほど定義を決めることになっている。


関税を支払った物品が、最終的にEU圏内に入らない場合もあり得る。イギリスはこうした場合に払い戻しを行うかどうかの責任を負うことになる。

一方、一般人に対しては持ち物検査は行わず、個人間の発送品には関税が適用されない。

このほか、政府が北アイルランドの農家を支援できる金額には作業部会によって制限が設けられる。金額の上限は、農家が現在、EUの共通農業政策から得ている額を元に決められることになる。

物品についての規制

物品の規制については、北アイルランドはイギリスのルールではなく、EU単一市場の規則に従う。

これにより、アイルランドと北アイルランドの国境での基準や安全の検査を省くことが可能になる。

しかし、北アイルランドと、EU単一市場から離脱した残りのイギリスの間で検査が発生することになる。

規制の遵守

北アイルランドの「玄関口」での検査はイギリス側の職員が行うが、EUには職員を派遣する権利が与えられる。

協定案によると、EU側がイギリス側の職員の判断を覆すことができるようだ。

条項には、「EUの代表がイギリス当局に対し、正式な形で示された理由を元に個別の案件について規制対策を求めた場合、イギリスはこの対策を講じる必要がある」と書かれている。

北アイルランドの「同意権」

新協定に基づけば、北アイルランドはブレグジット後、関税などの側面で残りのイギリスと違う扱いを受けることになる。そのため、北アイルランド議会にはこれらの条項について可否を問う権利が与えられる。

協定案では2020年末まで離脱の移行期間が定められており、最初の投票は移行期間の終了からさらに4年後、つまり2025年1月以降に行われることになっている。

北アイルランド議会が一連の条項を否決した場合、同議会はその2年後に同意権を失う。その一方、この2年の間に「共同作業部会」がイギリスとEUに対し「必要な措置」について助言を行う。

単純過半数で条項が可決されれば、北アイルランドの位置づけは4年間維持され、さらに4年の延長を申請することになる。もしも「複数コミュニティーの支持」があれば、あるいはそれ以前にEUと新しい合意が決まらなければ、北アイルランドの位置づけについて8年延長を申請する。

「複数コミュニティーの支持」とはここでは、北アイルランド議会のユニオニスト(親英派)とナショナリスト(親アイルランド派)のそれぞれ50%以上が賛成票を投じた場合、あるいはそれぞれの40%以上が投票し、かつ全体で60%以上の賛成票が集まった場合を意味する。

この投票は、イギリスとEUの将来の通商関係について新協定が決まるまで続けられる。

イギリス政府はさらに、投票の段階で北アイルランド議会が閉会していた場合はについて、イギリス政府が投票が行われるための代替案を用意すると述べた。

付加価値税(VAT)

日本の消費税に当たる付加価値税(VAT)について新協定案では、北アイルランドにはEU法を適用するとしている。ただし対象となるのは物品のみで、サービスには適用されない。

これにより、北アイルランドとイギリスの残りの地域では異なるVAT税率が適用される可能性がある。通常、EU法はこうした事例を認めていない。

例えば、イギリスが家庭燃料にかかるVATをゼロ%に低減しても、北アイルランドでは引き続き5%の税率が適用される。

一方で、アイルランドと北アイルランドで不公平が出ないよう、北アイルランドにはアイルランドと同じVAT税率がかけられる可能性もある。

<変更されていない点>

新たな協定の大部分は、メイ前政権がEUと取りまとめた内容を踏襲している。いくつかの重要な点を紹介する。

移行期間

イギリスはとEUはブレグジット後に将来の関係性について協議を行うため、ブレグジットから一定期間は現行ルールを保持する移行期間を設ける。新協定では引き続き、2020年12月31日までと定められた。

移行期間中、イギリスはEU法に従うと共に、EU予算への拠出も継続する。一方、加盟国としての権利は失う。

双方が合意すれば移行期間の延長も認められるが、1年あるいは2年までと限定されている。

市民権

在EUイギリス国民と在英EU市民は、ブレグジット後も居住権や社会保障を受ける権利を保持する。

また、移行期間中は人の自由な行き来も保証される。この期間中はビザ(査証)がなくても、イギリス人がEUに住んで働くことも、EU市民がイギリスに住んで働くことも可能だ。

イギリス人については、EU加盟国1国に5年以上滞在すれば、永住権の申請ができる。

清算金

EUを離脱するにあたり、イギリスは清算金を支払う必要がある。

新協定案では具体的な金額は定められていないが、そのほとんどは2019年度と2020年度のEU予算への拠出になるとみられている。

ブレグジットが今年3月29日から延期されたことで、清算金の一部は加盟国としての拠出としてすでに支払われている。イギリスの予算責任局(OBR)は、清算金は従来の390億ポンドから下がって約330億ポンド(約4兆6000億円)になるとみている。

OBRによると、清算金の4分の3ほどまでは2022年までに支払いが完了するが、細かな支払いは2060年代まで続くと見込まれているという。

英・EUの将来の関係性

協定に付随する政治宣言で、イギリスとEUは将来の通商関係についての枠組みを定めている。この文書に法的拘束力はないが、今回の交渉で改定が加えられた。

宣言では、双方が自由貿易協定(FTA)締結に向けて協議するとともに、2020年6月にはこの目標に向けた進展を確認するため、高官級協議を実施すると定められた。

また、新たに「公平な競争の場」についての条項が加えられた。これは、イギリスが将来どれだけEU規則に近い規定を受け入れるかを示したものだ。

「公平な競争の場」についての言及は今回、法的拘束力のある協定案から外された。

改定された政治宣言では、イギリスとEUは「国家予算、競争、社会福祉および雇用水準、環境、気候変動、関連する税制といった領域で、共通の高水準を維持する」必要があるとしている。

(英語記事 What is in Boris Johnson's new Brexit deal?