吉川圭一(グローバル・イッシューズ総合研究所代表)

 シリア北部(トルコとの国境地帯)からの米軍撤収を決めたトランプ大統領に批判が集まっている。米下院は10月16日、反対決議案を共和党からも多くの賛成者が出て圧倒的賛成多数で可決した。以前にもシリアからの撤収に関しては上院の3分の2の多数で反対決議が通ったことがある。ウクライナ疑惑で上院の3分の2の多数が必要とされる弾劾の危機に晒(さら)されているトランプ氏が、なぜ急にシリア北部からの撤収を言い出したのか?
 
 その背景にはワシントン内部での「内戦」状態がある。トランプ氏としては、それを突破し、当初からの公約である「世界に広げ過ぎた米国の軍事力をできるだけ縮小する」ことを実現したいのではないか? そうなれば日米安保などの関係で、日本にも大きな影響が出てくる。この問題に関して考えてみたい。

 いまワシントン、特に共和党内部では、ウクライナ問題とシリア問題を巡って、分裂があるようだ。例えばウクライナ問題ではトランプ氏擁護派の議員が、シリア問題ではトランプ氏を批判したりしている。ところが、これが彼らや共和党そしてトランプ氏に有利にも作用している。

 このような議員は、トランプ氏と自分は一体ではないと主張して、次の選挙を有利に戦える。共和党を支持する田舎の選挙民にとっては、シリア問題にあまり関心がない。シリア北部にはキリスト教徒も多いため、キリスト教保守派の反発はあるものの、これからの最高裁判事指名などを考えると、ウクライナ問題でトランプ氏が弾劾されたりしたら困る。

 このように共和党に有利な状況もある。しかし10月8日に発表されたワシントン・ポストの世論調査によれば、共和党支持者の20%がトランプ弾劾を支持しているという。さらに保守系のFOXが10月9日に発表した世論調査によれば、米国民の51%が、トランプ弾劾を支持しているという。この数字は、ワシントン、特に共和党を震撼(しんかん)させた。

 しかし両調査でも、トランプ氏の支持率は40%台半ばで安定したままである。共和党支持者内でのトランプ弾劾賛成が増えたのは、共和党内の反トランプ系議員の発言などの影響が大きいのではないかと思われる。つまり一過性のものである可能性も低くない。FOXの調査でもトランプ氏の絶対的支持者である貧しい白人や地方居住者の間では支持率が10%前後も増えていて、シリア問題を懸念しているはずのキリスト教保守派の間でも5%支持率が上昇している。

 非常に興味深いのは、米国で最も信頼される調査機関ゾグビー社(Zogby)が、同じ時期に行った調査の結果だろう。この調査によれば、米国民の53%が弾劾調査を支持。反対は40%。47%が弾劾手続きも支持。反対は41%だ。

 ところが米国民の46%が、トランプ氏は来年の大統領選挙で再選されると考えている。そう考えない人は33%なので非常な大差である。

 この調査でも、トランプ氏への支持が最も低い女性とヒスパニック(中南米系)以外の人々の間では、若者、高齢者、大都市居住者、地方居住者、労働組合員、富裕層、どれを取っても2020年にトランプ氏が再選されると思う人が思わない人を上回っている。女性とヒスパニックの間でも、再選されると思う人と思わない人は、40%前後で拮抗(きっこう)している。

 この調査では、トランプ氏とウクライナ大統領の電話会談を不適切と考える人は46%。考えない人は40%。分からないが14%。

 FOXの調査では、弾劾に値するか、適切だったか、それとも不適切だったが弾劾には値しないか?―という聞き方をしている。すると後者の二つを足した数字が、弾劾に値すると、ほとんど同じ40%台半ばなのである。

 つまり米国民は調査などによって真実を知りたがっているのではないか? その真実次第では、トランプ氏再選は十分以上にあるということだろう。

 例えば共和党内の調査では、2020年の下院の選挙で95の激戦選挙区で、共和党の候補が民主党の候補を、平均して10%近くもリードしている。2016年にトランプ氏がヒラリー氏に勝った下院選挙区に、いま31人の民主党下院議員がいるが、これらの選挙区でも共和党候補者が10%以上リードしている。

 このままの情勢でトランプ氏や共和党に有利な真実が次々と明らかになり喧伝(けんでん)されれば、トランプ氏再選の可能性は非常に高い。では米国民が知りたがっている「真実」とは何か?

 それはFOXの調査の中にヒントがある。この調査によれば、民主党の下院議長やウクライナ疑惑を調査しているペロシ下院情報委員長(民主党)の支持率は、トランプ氏を下回っているのである。
トランプ米大統領のウクライナ疑惑に関し、下院情報特別委員会が公開した内部告発の文書=2019年9月26日(AP=共同)
トランプ米大統領のウクライナ疑惑に関し、下院情報特別委員会が公開した内部告発の文書=2019年9月26日(AP=共同)
 米下院情報特別委員会のシフ委員長は、9月に突然退任したウクライナ担当特別代表ボルカー氏が提出した通信記録のうち、弾劾に有利なメールだけを一般公開した。実はボルカー氏が提出した通信記録の中には、トランプ氏がウクライナ大統領にバイデン前副大統領関係の調査を強制した事実はないことを示すものもあったはずなので、共和党側は全ての通信記録の公開を迫っている。