2019年10月19日 18:21 公開

イギリス議会は19日午前、37年ぶりに土曜日に審議を実施した。ボリス・ジョンソン首相と欧州連合(EU)が取りまとめた離脱協定案について採決するのが目的だったものの、下院(定数650)が離脱手続きの延長につながる議員提出の修正案を322対306で可決したため、政府は離脱法案を週明けに提出する方針を示した。これによって、離脱協定案の採決は21日か22日までに延期されることになった。イギリス議会が週末に審議したのは、1982年のフォークランド紛争以来。さらに、下院で審議が続くなか、ロンドン中心部では数万人が行進し、2度目の国民投票の実施を求めている。

ジョン・バーコウ下院議長は審議冒頭、議員が提出した協定案に対する修正案の中から、元保守党のサー・オリヴァー・レトウィン議員の案の審議を認めた。レトウィン案は、「離脱協定法案(WAB)」が可決するまで、下院による離脱協定案承認を棚上げするという内容。ブレグジット(イギリスのEU離脱)期限の再延期を首相がEUに要請しなくてはならないと定めている。

このレトウィン案について下院は同日午後、322対306で可決した。

この結果を受けてジョンソン首相は、EUと離脱延期を交渉するつもりはないと言明。10月31日の離脱は何としても実現すると強調し、「政府は来週に離脱協定法案を提出する」と述べた。

これに対して最大野党・労働党のジェレミー・コービン党首は、首相が「法律を無視」し、議会を脅していると批判した。

下院で過半数を得るには320票が必要(登院しない北アイルランドのシン・フェイン党の7議員のほか、議長と副議長3人の合計11議員は投票しない)。ジョンソン政権は単独過半数を得ていないため、2017年から保守党に閣外協力してきた北アイルランドの地域政党、民主統一党(DUP)の支持が重要だが、DUPは今回の離脱協定案について、北アイルランドをイギリスの他地域と別扱いすることを強く懸念している。そのため、レトウィン案についても政府に反対する側に回った。

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可決されたレトウィン修正は、次のように定めている――。

  • ジョンソン首相は19日中に、来年1月31日までの離脱延期をEUに要請する必要がある
  • 首相はその後、離脱協定を法制化するためのWABを提出するとみられる
  • イギリス議会は2018年EU離脱法13条に基づき、離脱前に「意味ある投票」とWABの両方を可決する必要がある
  • ただし、新しいWABに「意味ある投票」は必要ないという条項が含まれていた場合には、WABだけが可決されれば承認となる
  • 首相が法制化手続きを迅速に行えば、イギリスはなお10月31日にEUを離脱できる可能性がある
  • しかし法制化手続きは長引く可能性があるほか、下院・上院双方から修正案が出る可能性も残されている

レトウィン修正は、離脱協定案が可決された後に合意なし離脱に転じる可能性を回避することを目的としている。レトウィン議員は、協定案が下院通過後に上院で却下されたり、可決後の法制化プロセスで一部の議員が態度を変えたりすることを懸念している。

下院で審議が続くなか、ロンドン・ウエストミンスター周辺では数万人が行進し、離脱協定案について国民が賛否を表明できるよう、2度目の国民投票の実施を求めている。

メイ前首相も協定支持を求め

この日の審議冒頭でジョンソン首相は、EUも国民もこれ以上の延期は求めていないと強調し、国民の過半数が求めたブレグジットを離脱期限の10月31日以降に延期するのは国を「侵食」するような悪影響をもたらすと述べた。首相は、国民投票の結果を「民主主義者」としてついに実現すべく、離脱協定をこの日の内に可決するよう呼びかけた。

このあとに登壇したコービン労働党党首は、政府がEUと合意した協定案は「最悪」で、今年前半に下院が3回にわたり否決したメイ前政権の協定案よりもひどい内容だと批判。経済への影響評価も法的助言含まれず、イギリスの労働者にとって不利で環境保護を悪化させる、国民への「背信」だとして協定案の否決を呼びかけた上で、この政府は信用できないし、最終的には国民が決めるべきだと述べた。

ジョンソン首相の離脱協定案が可決されるには、320票が必要。保守党は単独過半数を持たないが、労働党からは少なくとも9人が協定案に賛成するものとみられている。また、首相のブレグジット対策や議会運営に抗議して造反し、9月に保守党を除名された21人のうち数人が、首相の協定案を支持する可能性がある。

一方で審議では、DUP議員をはじめ、ウェールズの地域政党プライド・カムリの議員や、スコットランド国民党(SNP)の議員も次々に、ジョンソン政権はEU離脱のみに専心し、連合王国の各地域を軽視していると批判した。

離脱条件をめぐりジョンソン氏と対立することの多かったテリーザ・メイ前首相も審議中に発言し、「今日のやりとりにはかなり既視感があります」とした上で、「もしこの議会が(国民投票の結果を実施するという決議について)本気でなかったのなら、英国民に対して例がないほどひどい詐欺を働いたことになる」と述べ、ジョンソン首相がまとめた離脱協定を支持するよう強く呼びかけた。メイ前首相が下院審議でブレグジットについて発言するのは辞任以来初めて。

レトウィン案可決のあとは

レトウィン案が承認さ合、離脱協定案が可決されても以下のような修正が入る。

協定案が可決されたらどうなる?

修正案がない状態で政府の離脱協定案が可決されても、この協定案を法律にするにはまだ手続きが必要だ。

政府は早急に、10月31日の期限に間に合うよう動くだろう。週明けには、離脱協定を法制化するための「離脱協定法案(WAB)」が下院に提出されるはずだ。

一方、修正案付きで協定案が可決された場合は、離脱期日が遅れる可能性が高い。

協定案が否決された場合は?

下院が協定案を否決した場合、予定通りであれば、政府は合意なし離脱の可否について投票を行う可能性が高い。

合意なし離脱の動議をめぐっては、最大野党・労働党のピーター・カイル議員が、合意なし離脱を拒否するとともに、イギリスとEUの将来の関係についての「最終決定」を国民投票に委ねるべきだという修正案を提出している。

さらに、下院は9月、合意なしブレグジットを回避するための通称「ベン法」を成立させている。そのため、この動議が下院を通過する可能性は低いといえる。

協定案も合意なし離脱も否決された場合、ジョンソン首相はベン法の規定により、EUにブレグジット期限の延長を要請しなくてはならない。

なぜレトウィン案が注目されているのか

レトウィン案の方策は、ジョンソン政権にとって頭の痛い問題だと、BBCのマーク・ダーシー議会担当編集委員は指摘する。

政府がブレグジットをめぐる議論で学んだことは、超党派の修正案や動議がもっとも危険をはらんでいるということだ。

ひとつの政党による提案は大抵、ひとつの立場を示すためのものだが、複数の政党の議員が支持できる提案は、より深刻な脅威をもたらす。

レトウィン案の巧みに構築された主張には、離脱協定は必要だと思っているが、今回の協定案、ひいてはジョンソン政権を信頼していない議員からの支持が集まる可能性がある。

この案の背景には、とりあえずベン法の発動を回避するために協定案が可決された後、その後の立法過程で何かがどうかして脱線し、10月31日に合意なし離脱となる危険性があるという考えがあるためだ。

BBCのローラ・クンスバーグ政治編集長は、下院がレトウィン案を可決した場合、政府は協定案の審議と投票を21日に延期する可能性があると話している。

(英語記事 Brexit: MPs set for knife-edge vote on Boris Johnson's deal/ Brexit: What to expect from Parliament's Saturday sitting