一部の農家を保護するために、その国の国民は関税分だけ割高な農産物の消費を強いられる。関税を撤廃すれば、国内の消費者はより安い農産物を消費できるため、得になる。

 他方で、自国の一部農家にとっては打撃となるだろう。このとき、消費者の「得」と生産者の「損」を比べて、社会全体で「徳」が上回っていれば、関税の撤廃、つまり貿易自由化を行うべきだとの考えに至る。経済学など知らなくても理解できるはずだ。

 だが、この「常識」的思考はそう簡単には通用しない。損をする人たちの声がクローズアップされるため、あたかも得する人たちがいないかのように報道されたり、政治家が農家の声だけを代弁したりすることも多い。

 これでは、世論の中から、マスコミと政治家の声によって誘導され、あたかも関税撤廃が「悪」のように思う人たちも出てきかねない。実際、過去の貿易自由化をめぐる話題では、この種の「貿易自由化=悪」という図式が、いともたやすく人々が信じる「物語」と化した。

 最近では、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に関する議論がそうだった。その中で「TPPは米国の陰謀」「TPPで日本が滅ぶ」という「物語」が多数生まれた。関税も規制の一種なので、規制緩和や規制撤廃はこの種の「物語」を生みやすい。そして、これらの「物語」こそが反市場バイアスの別名なのである。

 そもそも、国家戦略特区は規制緩和を担う仕組みである。そのため、常に反市場バイアスに直面することになる。

 さらに「政府の行うことは常に間違い」「権力とは異なる姿勢を取るのが正しい」といった素朴な意見が、政府=悪魔という「悪魔理論」を生み出す。最近では、反市場バイアスと悪魔理論の矛先が原英史氏に向いていることは、過去の連載でも指摘した。

 ことの発端は、毎日新聞が6月11日に「特区提案者から指導料 WG委員支援会社 200万円会食も」と報じたことにある。記事を通常に読解すれば、原氏が「公務員なら収賄罪にも問われる可能性」があると理解してしまう。全く事実に依存しないひどい誹謗(ひぼう)中傷だと思う。
2018年3月、TPP署名式で新協定に署名する茂木経済再生相=チリ・サンティアゴ(ロイター=共同)
2018年3月、TPP署名式で新協定に署名する茂木経済再生相=チリ・サンティアゴ(ロイター=共同)
 この記事をめぐって、原氏は毎日新聞社と裁判で係争中である。ところが、原氏の報告によると、裁判の過程で驚くべき「事実」が判明した。第1回口頭弁論で、なんと毎日側は当該記事について、原氏が200万円ももらっていなければ、会食もしていないことが、「一般読者の普通の注意と読み方」をすれば理解できると主張したのである。

 これには正直驚いた。それならば、なぜ原氏がわざわざ写真付きで大きく取り上げられなければならないのだろうか。全く意味がわからない。