酒井政人(スポーツライター)

 国際オリンピック委員会(IOC)が、猛暑が懸念される東京五輪のマラソンと競歩を札幌市で開催すると発表した。30日からのIOC調整委員会で、大会組織委員会と東京都などと議論するというが、既に多くの問題点が浮き彫りになっている。ここでは「アスリート」の立場から、札幌開催の賛否を考えてみたい。

 マラソンと競歩の開催場所変更については、直前に行われていたカタール・ドーハの世界陸上の影響が大きかったといわれている。振り返ると、国際陸上競技連盟(IAAF)のセバスチャン・コー会長が開幕前の記者会見で、「私たちの医療チームは大きな警鐘を鳴らしている」と高温多湿の状況で行われるマラソンと競歩の安全面に懸念を示していた。

 大会初日に行われた女子マラソンは23時59分という深夜スタートにもかかわらず、気温は32・7度、湿度は73・3%というコンディションのもとで行われた。現地で取材していたが、少し歩くだけで汗が噴き出てくるくらい不快な気候だった。

 レースは予想通りのスローペースとなり、2時間32分43秒という優勝タイムは1983年から始まった世界陸上で最も良くなかった。出場68人中、28人が途中棄権しており、日本陸連のある幹部は「日中にレースをしたら死人が出ていたかもしれない」と漏らしていた。

 男子50キロ競歩も女子マラソンと同じような気象条件で、47人がスタートしたものの、ゴールできたのは失格を含めて28人だった。金メダルに輝いた鈴木雄介(富士通)ですら、終盤は徒歩のような速度に落とす場面もあった。優勝タイムの4時間4分20秒は、大会記録に30分以上も遅れ、過去のワースト優勝記録と比べても10分以上も悪かった。

 この「惨劇」を見れば、東京五輪のマラソンと競歩を涼しい場所で開催しようと方向転換することは理解できる。大会スタッフやボランティア、観衆を含めての安全面を考えると意味のある決断になるだろう。
世界陸上の男子50キロ競歩で、体に水を掛けながらレースする鈴木雄介=2019年9月、ドーハ(共同)
世界陸上の男子50キロ競歩で、体に水を掛けながらレースする鈴木雄介=2019年9月、ドーハ(共同)
 しかし、2020年の夏に東京で五輪が開催されるのが決定したのは6年も前だ。その時点から逆算する形で準備してきたアスリートたちはどう思うだろうか。
 
 特に、日本は地元の利を生かすべく、東京五輪が決まってから「暑熱対策」をより強化してきた。その成果もあり、昨夏のジャカルタ・アジア大会の男子マラソンでは井上大仁(ひろと、MHPS)が優勝。ドーハ世界陸上は女子マラソンの谷本観月(天満屋)が7位、男子競歩は鈴木と山西利和(愛知製鋼)で50キロと20キロの「ダブル制覇」を達成した。