島田明宏(作家、ライター)
阪神競馬場の芝1600メートルのコースは、2006年秋に改修されて外回りコースができるまで、スタート直後にキツいコーナーがあった。ゆえに、そこを舞台とする桜花賞は「テンよし、中よし、終いよし」の馬でなければ勝負にならないと言われ、3歳春の少女による争いとは思えない激流になることが多かった。
それもあって、「桜花賞は名勝負が見られるGI」というイメージを、私はずっと持ち続けていた。その傾向は、直線の長い外回りコースで行われるようになってからも、それほど大きく変わらなかった。
ところが、である。
昨年、2018年の桜花賞で「異変」が起きた。
直線入口で先頭から8馬身ほど離れた後方2番手にいたアーモンドアイが、大外から凄まじい脚で伸びて前をぶっこ抜き、最後は流すようにして、2着を1馬身3/4突き放してしまったのだ。2着になったのは、前年無敗で2歳女王になったラッキーライラック。これも相当強い馬だった。
ラッキーライラックとの一騎打ちになるのなら、まだ分かる。が、アーモンドアイは、これを逆転不可能に見えた位置からあっさりかわし、余裕タップリに突き放してしまったのだから、驚いた。

かつて、ナリタブライアンやディープインパクトが見せたように、牡馬のクラシックは、一頭の馬が強さを示すレースになることがままある。が、牝馬のGI、特に桜花賞は、名勝負になることはあっても、一頭が強さを誇示するレースにはなりにくい―という私の中の常識が木っ端みじんに砕かれた。