思い出されたのは、1987年、「元祖天才」田原成貴が乗るマックスビューティが2着を8馬身突き放した桜花賞だった。このとき2着だったコーセイも、古馬になって牡馬混合重賞を2勝したほど強い馬だった。

 着差こそマックスビューティの桜花賞ほど大きくはなかったが、衝撃度は、勝るとも劣らぬ強烈さだった。

 それだけではない。馬は、必ずどちらかの前脚を突き出して走る。阪神のような右回りのコースでは、右前脚を突き出す右手前でコーナーを回り、直線では左手前に替えてゴールまで走り切るのが普通だ。

 ところが、アーモンドアイは、この桜花賞の直線で、私がVTRで確認できただけでも6回ほど手前を替えていた。手前を替えるということは、四肢が着地する順番を丸ごと替えることになる、つまり、筋肉の使い方を大きく変化させることになる。普通、手前を替えるのは、苦しくなって余裕がなくなったときなのだが、アーモンドアイは、手前を何度も替えながら伸び続けた。

 そういう意味では、不思議な、新種の強さを見せた馬でもあった。

 ここで少々自慢話を。昨秋、スポーツ誌で競馬特集をすることになり、秋華賞の前の段階で、同誌編集長を含む3人の編集者と打ち合わせをした。そのとき私は、「今東西にいる現役馬で、古馬の男馬を入れても一番強いのはアーモンドアイですよ」と言った。それならば、と、同誌で4ページほどアーモンドアイの特集を組むことになった。

 あり得ないタラレバだが、あの桜花賞の直線入口で、同じ位置からディープインパクトやオルフェーヴルがスパートしたとしても、そう大きな違いにはなっていなかったのではないか。そう思っていたので、オークスの楽勝劇は、特に驚かされることのない「普通に強いレース」だった。
アーモンドアイ(中央)を管理する国枝栄調教師(右)と根岸調教助手=2019年10月、美浦トレセン
アーモンドアイ(中央)を管理する国枝栄調教師(右)と根岸調教助手=2019年10月、美浦トレセン
 秋華賞の前、アーモンドアイを管理する国枝栄調教師にインタビューした。私は「アーモンドアイは、現時点ですでに古馬を入れても一番強いのでは」と訊(き)いた。同師は特に驚く様子もなく、「まあ、ウオッカやジェンティルドンナを追いかける存在になってほしいとは思っています」と笑みを浮かべた。その口調から、師もその時点で「この馬が一番強い」と思っていることが伝わってきた。