なぜか。戦後の朝鮮半島問題は革新系の学者が先導したからだ。しかも、その多くは戦前に朝鮮の植民地化を支持した人たちだ。

 彼らは韓国を否定し、北朝鮮を肯定する「運動」に取り組むことで、自分の過去を合理化してきた。そうして「日本人にいじめられた朝鮮人もいただろうが、それが全てではない」と主張する者に激しく攻撃を加えたのである。

 筆者は新聞社に勤務していた75年、韓国の延世(ヨンセ)大と高麗大に留学し「韓国はやがて先進国になる」と書いたところ、社の内外から「韓国の手先」と陰口を叩かれて、いじめを受けた。それが、94年に月刊誌『中央公論』で「北朝鮮は石油がないから戦争できない」と指摘すると、「北朝鮮の手先」と攻撃されるようになった。

 日本の新聞は、朝鮮戦争について長い間「北朝鮮が始めた」とは書けず、日本人拉致が「北朝鮮の犯行」と指摘するのもはばかられたころの話である。そのような時代に、「真実」を書く場所を筆者に与えてくれた『中央公論』の宮一穂編集長には本当に感謝しかない。

 筆者は新聞社の先輩に「記者や学者が『運動』に加担するようになったら終わりだ」と口を酸っぱくして言われたので手を染めることはなかったが、運動に乗せられた記者も少なくなかった。運動に加担すれば、目的のために平気で嘘をつくようになる。このように、日本で扱われる朝鮮半島問題は、運動が主流となり、運動の前に「真実」は妨害され続けてきたのである。

 そのような中で、記憶に残る韓国人学者もいる。国民大の韓相一(ハン・サンイル)名誉教授は、著書『知識人の傲慢(ごうまん)と偏見』(韓国・キパラン社)で、月刊誌『世界』の「親北反韓」の姿勢を厳しく批判した。

 韓氏は、日本人と韓国人が友好的で平和的な関係を築くには、互いに尊敬し合えるようになることが重要だと説く。それなのに、『世界』と執筆陣は「南朝鮮(韓国)」への差別感情をむき出しにしながら、「人権抑圧の独裁国家」北朝鮮礼賛に人々を導き、日本人拉致を否定してきた。

 北朝鮮の工作活動として使われた「代表作」が、『世界』で73年から約15年続いた連載「韓国からの通信」だ。駆け出し記者のころの筆者も愛読したほど、多くの新聞記者の「教科書」だった。
2019年9月2日発売、小学館『週刊ポスト』の「韓国なんて要らない」と題した特集記事
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 ところが、実はこの連載は日本で書かれていて、ジャーナリズムの基準に照らし合わせれば「捏造(ねつぞう)」であったことが後に分かる。当時の『世界』編集長も韓国月刊誌のインタビューで「自分も執筆している」と認めている。本当に韓国から届いた寄稿だと思っていた記者たちはすっかり騙されたことになる。

 「韓国からの通信」は、韓国でも反体制派学生の翻訳により地下出版されていた。筆者がソウル特派員時代、翻訳本を持参した学生は「日本人が韓国の状況を『宮廷闘争』のように楽しんでいるが、その参考のために翻訳した。日本人の差別意識が分かる」と発刊の理由を語った。この思いは本の序文にもつづられていたほどだ。