技能実習の受け入れ枠も拡大


 安倍政権下での「単純労働」受け入れ拡大は、介護が初めてではない。その第1弾は、昨年4月に決めた建設業に従事する技能実習生の滞在期間の緩和である。東日本大震災からの復興などに加え、東京五輪の開催準備で建設需要が急増するとして、滞在を実質2年延長できるよう五輪までの臨時措置として認めた。

 安倍政権は第2弾ともいえる介護分野の追加と同時に、第3弾として技能実習制度そのものの改革を図ることにした。法令を守っている優良な企業・団体については受け入れ枠を2倍程度に広げ、実習生の滞在期間を5年に延長する緩和策を講じようというのだ。

 昨年6月の新たな成長戦略では「国内外で人材需要が高まることが見込まれる分野・職種のうち、制度趣旨を踏まえ、移転すべき技能として適当なものについて、随時対象職種に追加していく」としており、今後、さらに増やす構えである。

 だが、技能実習制度をめぐっては海外から「強制労働」との批判もある。安倍政権が本音と建前を使い分けて、強引ともいえる受け入れ拡大路線を突き進めば、予期せぬリスクを背負うことにもなりかねない。

 安倍政権の「単純労働者」の受け入れ拡大の動きは、技能実習制度だけではない。国家戦略特区において外国人家事支援人材(メイド)を認めようとしているのだ。「女性の活躍推進のため」という名目で、地方自治体などが一定管理し、家事支援サービス会社に雇用されることを条件とするという。

 これは、昨年秋の臨時国会に提出した国家戦略特区法改正案(衆院解散に伴い廃案)にも盛り込まれており、安倍政権は同法案をさらにバージョンアップして今国会での成立を目指している。

 家事支援こそ「単純労働」の典型である。「女性の活躍推進のため」ということは、夫婦が働きに出た後の留守家庭に入って掃除や買い物などをすることを想定しているということだ。小さい子供の世話なども請け負うというのだろうか。メイド文化が根付いていない日本で、どれぐらいの人が留守中に見知らぬ人が家庭に入るのを許容するのだろうか。これを経済成長の手段とする政府の説明には無理がある。

外国人医師も解禁へ


 安倍政権は「単純労働」だけでなく、「高度人材」の受け入れ推進にも邁進している。

 1月29日の産業競争力会議では、6月の成長戦略の再改定に向けた検討方針が示されたが、そこでも「外国人材活躍促進のための環境整備」が柱の1つとして打ち出された。

 これと符合するように、看過できない動きが出て来た。国家戦略特区において、日本の医師免許を持たない外国人医師に、日本人患者の診療を解禁しようというのだ。1月27日に行われた国家戦略特区諮問会議の配布資料に規制改革の追加項目として記載された。

 今回は医師の確保が困難な地方で認めようという提案だ。「あまり影響がない」とでも思っているのか、反対派の動きは鈍い。だが、医師のレベルは国によって大きく異なる。無制限に受け入れたのでは患者の安全が守れるのか疑問だ。

 特区といっても壁のようなもので囲われるわけではない。患者が自由に医療機関を選べる日本においては、誰もがいつ外国人医師に受診することになるか知れない。例えば、旅先で急病となり、救急車で運び込まれた病院に、日本の医療水準に遠く及ばない外国人医師しかいなかったということだって想定される。そうでなくとも、高齢化が進むにつれて医師不足地域が広がることが予想される。そのすべてで外国人医師を認めたら、どこが特区なのか分からなくなる。

 外国人医師については、2013年12月に成立した国家戦略特区法で、外国人患者一般に対して診療できる道を開いた。今回はこれを一歩踏み出そうというものだ。安倍政権はさらなる緩和を模索しており、今回の小さな一歩が大きな踏みだしに変わることは十分に考えられる。

 政府は、外国人医師受け入れについて「外資誘致が拡大できる」とも説明しているが、これも詭弁と言わざるを得ない。

 日本に来てまでビジネスをしようという人たちは、元気だからこそ異国に出向くことができる。出身国の医師がいようが、いまいが受診することは稀だろう。

 一方、海外の名医がわざわざ母国でのポストをなげうってまで来日するとは思えない。万が一、日本で働く外国人ビジネスマンが急病になったり、大けがをしたりしたとしても、母国から来た二流どころの医師よりも、レベルの高い日本の病院を選ぶだろう。

 世界展開するような大企業は、エリートビジネスマンを派遣するに際して、家族を含め医療面のバックアップに万全を期すだろう。大都市のオフィス街には、こうした需要を満たすべく、英語などで対応する医療機関も増えている。