田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権のイメージアップに、日本がまた利用されている。日本の報道ではめったに取り上げられないが、韓国内では、文政権に対する抗議デモが展開されていて、数十万人(主催者発表は最高で200万人)も集まる大規模なものであった。

 デモの大きな契機になったのが、文大統領による曺国(チョ・グク)前法相の任命と早期退陣であったことは確かだ。しかし、韓国経済の失速の鮮明化や朝鮮半島情勢の硬直化など、文政権が内外で手詰まりを見せていたことも、韓国民の多くが不満に思う背景にある。

 事実、文政権の支持率は40%を割り込み、「危険水域」と評されてきている。政権としては、国内外でイメージアップを採用する動機が強くなるはずだ。

 その矛先の一つが日本に対する「柔軟」な外交方針の採用にある。もちろん、「柔軟」は単に言葉だけで、中身は空っぽなものだ。

 つまり、韓国によるイメージアップの「だし」に日本が使われているだけである。実質的な外交成果を狙うものではないことに注意すべきだ。

 日本への韓国の外交攻勢は二つの方向から行われた。一つはタイの首都バンコク郊外で開かれていた東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3(日中韓)の首脳会議が舞台だった。

 安倍晋三首相と文大統領は会議の控室で11分間、言葉を交わしたという。この「対話」は、形式的なあいさつをして立ち去ろうとする安倍首相を文大統領が着座するように促すことで実現したとされる。つまり無理強いである。
バンコクで行われたASEAN関連首脳会議の記念撮影で、韓国の文在寅大統領(右から2人目)とあいさつする安倍首相夫妻=2019年11月(代表撮影・共同)
バンコクで行われたASEAN関連首脳会議の記念撮影で、韓国の文在寅大統領(右から2人目)とあいさつする安倍首相夫妻=2019年11月(代表撮影・共同)
 韓国では、今回の動きにより日本との本格的な対話が開始されたと解釈するむきもあったようだ。だが突発的な対話で、日韓問題の解決の糸口が見いだされるわけもない。

 両首脳は、日韓関係が重要であるとの認識と懸案事項の対話による解決という原則の確認に終始した。特に安倍首相は、いわゆる元徴用工問題について、日韓請求権協定に基づき、既に解決済みであるという従来の日本側の正当な主張を繰り返した。