トリチウムは大気中の水蒸気や雨水など自然界にも存在する放射性物質で、水から分離して取り除くことは難しい。健康への影響について国は、トリチウムは弱い放射線を出す物質で、体内に取り込んだときに起こる内部被ばくの量も放射性セシウムと比べて低いため、これまで健康への影響は確認されていないとしている。

 トリチウムは運転をしている原発からも発生する。このため国は基準を定めていて、国内では1リットルあたり6万ベクレルの基準値以下であることを確認した上で海に放出している。

 トリチウムなどを含んだ処理水は日々増え、東京電力によると、現状の計画のままでは3年後にタンクが満杯になる見通しだという。原発構内には今後、廃炉のための別の施設をつくる必要もあり、トリチウムを含んだ水をためるタンクを増設する用地確保が難しくなっている。

 だが、9月27日に開催された資源エネルギー庁電力・ガス事業部原子力発電所事故収束対応室主催の「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」(委員長、山本一良名古屋学芸大副学長)では、まだ敷地内にタンクをつくる余地があるとして、問題を先送りしてしまった。進次郎氏の不用意な発言がなければ、原田前環境相の言うように、希釈して海に放出する方向になったかもしれないのだ。 

 さて、ここで扱いに苦慮するトリチウムを含んだ処理水について科学的な考察を加えたい。まず、トリチウム水とはどのようなものかを図2を用いて解説する。水素は陽子1個と電子1個からなる原子であり、酸素と結合して水(H2O)となり、地球上に多量に存在する。重水素は、陽子1個にさらに中性子1個が加わった原子核を持つ原子(D)である。これが水になったものが重水(D2O)である。自然界にある水素のうち0・015%存在し、1リットルあたりの値段は高級ブランデーくらいである。
(図2)水素・重水素・三重水素(トリチウム)
(図2)水素・重水素・三重水素(トリチウム)
 わが国では、普通の水(軽水と呼ぶ)を原子炉で飛び交う中性子のスピードを落としてウラン235の核分裂を可能とする減速材に使っているが、重水を減速材に使うと低濃縮ウランを使わずに天然ウランで核分裂反応が継続する臨界にすることができる。

 このため、カナダで開発されたCANDU(キャンドゥ)炉などが実用化されて、カナダや韓国、インド、パキスタンなどで運転されている。この重水炉の炉心で生成されるプルトニウムは純度が高く発熱も少ないため、核兵器にも転用されることが多い。北朝鮮で独自に開発された重水炉も核兵器用のプルトニウムを生産するのに使われている。

 そして、原子核にさらに中性子が追加されて陽子1個、中性子2個の計3個の質量数になったものが、三重水素(トリチウム=T)である。このトリチウムが水になったものがトリチウム水(T2O)である。トリチウム水は、化学的な性質が普通の水(軽水)と似ているため、トリチウムが希釈された水から分離するのは、極めて困難である。このトリチウムは、放射性同位体で、半減期は約12年なので、約12年経つと半数がヘリウム3に変わる。

 このときに1ベータ線を放出する。このベータ線は透過力が弱いので、外部被ばくの問題はほとんどないが、水に交じって体内に入るとこのベータ線が内部被ばくの原因になるので、注意が必要である。世界保健機関(WHO)の飲料水水質ガイドラインのトリチウムの濃度は1リットルあたり1万ベクレルである。福島第1原発内のタンクに保管されている処理水のトリチウム濃度は最大でも約100万ベクレルであるので、飲料水基準にするなら100分の1に希釈すればよい。