海外でも、基準などを定めて海などに希釈して放出されている。こうしたトリチウムの性質などから、原子力規制委員会は、田中前委員長も、更田委員長も、基準以下に薄めて海へ放出することが科学的に合理的な処分方法だとする見解を示しており、再三にわたり東電に希釈放出を促している。

 しかし、その一方で、事故から8年半がたち、漁業や農業、観光といった福島県の産業に復興の兆しや道筋が見えてきた中で、再び風評被害が起きることへの懸念は根強いものがあり、現時点で解決の糸口は見えていない。

 最終的な処分の方針を決める国はこうした状況を踏まえ、これまでに放射性物質の濃度を下げて海に放出する案、加熱して蒸発させる案、地下深くに埋設する案などを示してきたが、これらの案はいずれも海や大気など環境中に放出するもので、住民参加の公聴会などで風評被害を心配する声が相次いだ。特に、海洋放出以外の案は実証性や技術的成立性の担保を取ることが困難だ。従って、海洋希釈放出を慎重に計画し、風評被害対策をとることが唯一の解である。

 ここで厄介なのは、わが国は海洋に処理水を放出しようとしているためだが、「放射能オリンピック」をボイコットすべきだと文句をつけてきたのが隣国の韓国である。しかし、ここでちょっと待ってほしいと言いたい。

 図3は、世界の原発などからのトリチウムの年間排出量である。先ほど、韓国には重水炉があると指摘したが、原子炉内で重水が流れていると、炉内で高速で飛び交う中性子を吸着すれば重水はトリチウム水に変わるのだ。このため、韓国のトリチウムの排出量は、わが国の数倍に達すると言われており、日本のトリチウム水の放出を問題にするなら、韓国の方は自分の国に住むことをボイコットすべきなのだ。
(図3)世界の原発などからのトリチウムの年間排出量
(図3)世界の原発などからのトリチウムの年間排出量
 このように、困難な風評被害対策だが、解決のヒントを隣国の台湾の若者たちが日本に教えてくれたのだ。台湾も韓国と同じように福島県および近隣県の農産物を輸入禁止にしている。台湾では2017年の夏に、蔡英文(さい・えいぶん)総統が選挙で公約した脱原発政策のもとに金山1、2号機の定期検査後の再稼働を認めなかった。

 このため、猛暑に見舞われた台湾は電力不足に陥り、連日のようにエアコンの使用制限などの節電対策を強要した。これは国民の反感を買った。このさなかに火力発電所の燃料を送る配管バルブの操作ミスで火力発電所が運転停止した。それを引き金に、台湾全土で深刻な停電が発生した。

 これに対し、若者たちが立ち上がり、「以核養緑」(原子力を使って地球環境を養う)のスローガンで国民投票に持ち込み、勝利したのである。そして台湾政府の法律から「脱原発の文字」は消えた。しかし、蔡総統が、脱原発をあきらめないため、若者たちが福島県の復興状況と食の安全確かめようと来日したのである。

 そこで、東京工業大では、福島イノベーション・コースト構想推進機構学術研究活動支援事業「リスク・コミュニケーション工学を活用した復興学による浪江町創成」(提案代表、木倉宏成准教授)が活動中であったため、台湾からの来日学生チーム(うち何人かは日本の大学に留学中)と台湾の原子力学会長の李敏教授を福島県の水族館「アクアマリン」に案内した。