松茸不正輸入摘発は大きなカード


 安倍政権は北朝鮮がいやがっている拉致問題の国際化の一環として5月5日、ニューヨークの国連本部前で、日本政府主催の北朝鮮人権国際セミナーを開催し、山谷えり子担当大臣が基調講演をする。私も家族会代表らと共に参加する予定だ。それに対して金正恩は5月9日モスクワで行われる対独戦勝利70周年式典に参加すると言われている。日本に頼らなくてもロシアがあるという安倍首相への牽制の意味もあろう。なによりも、北朝鮮軍の武器・装備の大部分は旧ソ連製であり、部品などが不足して戦力が大幅に低下していることに金正恩は危機感を抱いている。昨年もミグ19戦闘機が3機墜落して、パイロットらが搭乗を怖がるなど部品不足の影響は深刻化している。しかし、ロシアは現金払いをしない限り北朝鮮にものを売らない。過去のように一方的な支援は考えられない。中国との関係は最悪の状況が続いている。
5月5日、ニューヨークで開かれた北朝鮮人権国際シンポジウムでスピーチする山谷拉致問題相(右端)。右から3人目は横田拓也さん(共同)
 韓国とは2017年12月の大統領選挙で従北左派を勝たせるために、朴槿恵政権とは関係改善をしないだろう。選挙の結果、韓国が再び太陽政策に転換し大量の支援が実施されることを期待しながらそれまでの3年間、拉致を餌にして安倍政権に接近して、対日貿易再開・総連からの送金の復活・人道支援などで経済延命、安倍訪朝で国際孤立挽回などを狙っているのだ。

 金正恩は対日協議を中止できない。だからこそ、今、日本がすべきことは、ぶれないで拉致最優先を貫くことだ。安倍首相が語った「北朝鮮が未来を描いていくことは困難だと認識させる」ためには、より強い圧力が必要になる。自民党の拉致対策本部はどのような手段でより強い圧力を加えるかを検討するプロジェクトチームを5月に発足させる。

 総連組織ぐるみの松茸の不正輸入事件で、現職総連最高幹部やその息子らの逮捕というカードも安倍首相の手にあると思われる。今回事件化されたのは2010年9月、北朝鮮産の1200キロを中国・上海経由で中国産と偽って輸入したという容疑(外為法違反)だ。わずか1トンあまりの不正輸入だが、私は日本の松茸消費量の1割を超える大量の不正輸入が行われたという以下のような有力な情報を入手している。

〈2006年の核実験により北朝鮮産品が全面輸入禁止になったので松茸も輸入が禁止になったが、2011年まで総連系の朝鮮特産物物産などが迂回輸入していた。今回事件化された2010年もそのような不正輸入だった。
 しかし、2012年にはより大規模な不正輸入が始まった。危ないものは取り扱わないようにしていた築地市場でさえ扱い始めた。
 2012年の北朝鮮からの輸入量は約200トン、キロ5千円で計算すると約10億円になる。同年の消費量は1450トンだから約14%が不正輸入された北朝鮮産ではないかと疑われる。
 北朝鮮産は吉林省産として売っているが、吉林省は寒いので9月初めが輸入の限度だ。その後は雲南省から輸入する。10月に吉林省産を輸入できるはずがないのに、出回っている。そういうことは、市場関係者は皆知っていながら金儲けのため黙っている。
 相手が中国だから日本当局は強く出られないだろうと勝手に思い込み、輸入している。ただし、DNA鑑定をすれば北朝鮮産であることは分かる。韓国産と北朝鮮産は似ており姿がいい。中国産は姿が違う〉

 事件化された1・2トンはまさに氷山の一角だ。警察はかなり時間をかけて緻密な捜査を行ってきたと見える。総連が組織ぐるみで大がかりな制裁破りをしていたことが判明すれば、彼らは今後、日本国内で大変厳しい立場におかれるだろう。また、松茸輸出は金正恩の秘密資金を管理する労働党39号室や軍の外貨稼ぎ部門が行っているので、その資金を遮断することは金正恩政権に大きな打撃を与えることになる。総連は家宅捜索に強く反発しているが、迂回輸入そのものがでっち上げだとは主張できず、自分たちは全く無関係だと訴えるのみだ。北朝鮮産松茸が大規模に不正輸入されているということを彼らもよく知っているのでそこで争うことができないのだ。

守勢に回っているのは金正恩


 安倍首相はぶれていない。金正恩は守勢に回っている。安倍首相は昨年3月、局長級公式協議が始まったとき、(1)拉致問題最優先、(2)拉致被害者安全確保、(3)拉致問題一括解決(被害者一括帰国)という3針を決めた。(当時の古屋圭司担当大臣の説明)。そのうち、(1)と(2)はほぼ確保された。問題は(3)である。先に見たように、北朝鮮は日本人妻らと一緒に数名の未認定被害者を出してくる案を持っているという情報があるからだ。また、現段階で金正恩は全被害者を返す決断をしていない。つまり、再び、生存者について死亡と通告してくる危険があるのだ。

 このまま進めば、金正恩側が、拉致ではなく日本人妻や墓の報告を優先させる方針を諦めて、拉致についても何らかの報告を出してくる可能性はある。拉致とそれ以外の報告を同時にするかもしれない。

 しかし、そこで妥協してはならない。今、日本が急ぎしなければならないことは、金正恩に対して、日本が制裁や総連への取り締まりを緩め、人道支援を行うための最低条件を分かりやすく伝えることだ。具体的には、「認定被害者を含む全ての生存者の一括帰国」は絶対譲れないと伝えるのだ。上記(3)を再度確認することだ。認定被害者に関して新たな死亡通告をするならば日朝関係は再び、悪化し、日本は全ての手段を動員して「北朝鮮が未来を描いていくことは困難」な状況を作り出すと伝えなければならない。

 この点を曖昧にした交渉を行って、あとから北朝鮮が「話が違う」などというクレームをつける余地を与えないようにする必要がある。

 家族会・救う会はすでに3月1日、その点を明記した次のような運動方針を決めている。

 〈被害者のリストはすでに金正恩氏のもとにある。全員返すという決断をするかどうかが問題の核心だ。いわゆる再調査委員会が報告を遅延させているため、報告をいつ出すのかが焦点となりがちだが、我々は基本に戻り、全ての被害者をすぐ返せと要求する。特に、生きている被害者を傷つけて「証拠」を捏造する暴挙を行うなら、日朝関係は最悪になる。救う会はこの間、被害者の確実な生存情報を入手していると伝えておく。
 我々は金正恩政権に、これ以上被害者抑留を続けるなら日本国民の怒りは限界を超え、制裁の再発動や強化を求めるための一大国民運動を起こすと警告する。いまこそ、全被害者を取り戻す最終決戦のときだ〉。

 また、家族会の飯塚代表は4月3日安倍首相に「焦って北の報告書を受け取る必要はありません」と、次のようにその点を明確に訴えた。

 〈総理、率直に申し上げますが、我々は拉致被害者の確実な帰国を譲ることができないのです。焦って北の報告書を受け取る必要はありません。拉致被害者の確実な帰国の実現以外、望んでおりません。
 総理の英断と行動をもって、どんな状況下にあろうとも、拉致被害者帰国の実現に向け、最優先で対応してください〉

 まさに、最終決戦のときが来ている。