では、何が問題なのかと言えば商船、大型タンカーなどではなく核兵器を搭載した艦船がわが国の領海内を通行することです。この行為は国連海洋法条約で禁止されていませんが、わが国には法的拘束力こそないものの国是としている非核三原則(核兵器を持たず、作らず、持ち込まさず)というものがあり、核兵器を搭載した艦船がわが国領海に入れば、そのうちの一つ「持ち込まさず」に抵触するからです。

 ただし、政府は領海及び接続水域に関する法律を作成する過程で行われた審議のときから、先ほど紹介した答弁書のような言い訳をしてきており、非核三原則が原因であることを一貫して否定しています。しかし、平成21年6月22日に配信された共同通信の記事によれば、ある次官経験者の話として

「津軽海峡を全部、日本の領海にしたら『米軍艦は核を積んで絶対に通らないんだな』と質問された場合、『積んでいない』と答えなければならない。しかしそれはあまりにもうそ」と言明。「うそをつかないために」公海部分を残したと証言した。別の経験者は「(12海里にして)ゴタゴタするより(公海として)空けたままにして従来通りという方が楽」との打算があったと語った。

 とあります。

 この5つの海峡や水道を個別に見ると、対馬海峡西水道だけは日本と韓国の双方が領海の幅を3海里に抑えているので合理性はありますが、他の4つについては正当化する理由が見つかりません。

 特に宗谷海峡は(樺太がロシアの領土か否かという問題は置いておく)海峡の幅が22・7海里と24海里未満であるため、国連海洋法条約に基づけばわが国は領海の幅を両国の領海基線から等距離にある中間線まで主張することができるのですが、わが国は領海を3海里の幅に設定しています。それに対してロシアは中間線を主張しているためロシアの領海が日本より大きいという非対称な関係になっています。

 これは到底「一般商船に対する航行の自由」という理由だけでは説明がつきません。やはり、米ソ(当時)の核兵器を積んでいると思われる艦船の通行のためという説明の方が、説得力があります。
 
 このような国会対策ともいえる理由でわが国の領海が無駄に制限されさまざまな国益が損失しており、問題は多岐にわたります。このため、全てについて説明することは難しいので安全保障上どういう問題があるのかということに絞って話しますと、ここで前述した「領海の外で起こった日本船以外に乗り組む外国人が起こした過失による衝突事件については、日本人が何人死亡しようが、単なる衝突事故であれば、わが国に刑事上の管轄権はありません」という言葉とつながるわけです。
水産庁の漁業取締船「おおくに」と衝突した北朝鮮の漁船=2019年10月7日(同庁提供)
水産庁の漁業取締船「おおくに」と衝突した北朝鮮の漁船=2019年10月7日(同庁提供)
 ただし、この「特定海域」に存在する領海以外の海域は、水産庁の漁業取締船と北朝鮮漁船が衝突した排他的経済水域(EEZ)とは違い、公海であっても国連海洋法条約に規定された接続水域(領海の幅を測定するための基線から24海里以内に沿岸区が設定する海域)です。そのため、国外犯規定のある法令違反の取り締まり以外にも「自国の領土又は領海内における通関上、財政上、出入国管理上又は衛生上の法令の違反を防止すること」について規制を行うことができます。

 平たく言えば密輸、密航や感染症などの防止に関しては規制することができるのですが、逆に言えば、それ以外のことはできないわけですから、仮に津軽海峡や大隅海峡において悪意を持った人間が衝突事故を装って重油を満載したタンカーを沈没させ、油を流出させても故意を立証するのは難しいため、民事はともかく、刑事的な責任を問えないという事態になりかねません。