あのように狭い海峡で油が流出すれば津軽海峡であれば陸奥湾が、大隅海峡であれば錦江湾が油により汚染され漁業者が壊滅的な被害を受けるだけではなく、油の回収費用も莫大(ばくだい)な金額に上ります。ちなみに、ロシア船籍タンカー「ナホトカ号」の重油流出事故の被害請求総額は358億円(最終査定は261億円)でした。

 もっと極端なことを言えば、日本と敵対する国が軍事演習や通信傍受、妨害電波の発信といった敵対行動をとっても実務上はともかく、国連海洋法条約を根拠に非難することはできません。ここまで飛躍した話は今のところ起こり得ないとは思いますが、今後、国際情勢が変化し、近隣諸国との関係が悪化すれば、日本を挑発するために行われないとは言い切れません。

 現状、特定海域内の公海において潜水艦が潜航したまま通行することや、上空も領空ではないため、航空機の通行が自由に行うことができますが、これについてはわが国が領海の幅を一律12海里にして海峡や水道全体が自国の領海になっても、おそらく国連海洋法条約の「国際航行に使用されている海峡」という制度が適用されるため、一般的な領海を通行する際の無害通航権より権利の強い通過航行権というものが発生しますので、実務上変わりはありません。

 しかし領海であれば管轄権の問題などで公海に比べると法的なわが国の権利が認められやすくなるので、変えなくてもよいという話ではありません。その他にも、この抜け穴を利用してわが国を攻撃する方法はありますが、あまり詳しく書くと実行される恐れがあるのでここら辺にしておきます。

 わが国の問題は、前回、例に挙げた公海上を航行中のパナマ船籍タンカー内で起こった殺人事件のように、事が起こってから法令をつくる泥縄式が非常に多いことで、今般の中共(中国共産党)の海洋調査船の件でも、外国船がわが国の領海内で海洋調査を行うことを阻止する国内法がないということを実際に調査船が来てから気づく有様(ありさま)です。

 わが国は法治国家なので隣国のように遡及(そきゅう)して法令を適用することができないのですから、国会議員の皆さま方にはぜひとも予見される危機に対応できるような立法措置をお願いしたいところです。

 私の知る限り、両岸が自国であるにもかかわらず、あえて領海の幅を制限してまで海峡や水道内に公海を意図的に作り出している国はありません。

 喫緊の課題というわけではありませんが、国連の「敵国条項」が、東シナ海が今ほど騒がしくない1995年に「死文化しており現実に与える影響は極めて軽微である」として放置された結果、日本を侵略しようとしている国に悪用される恐れが現実となっている現状に鑑みれば、改正できるときに改正しておかねば、後日に禍根を残すことになりかねません。
観閲する(右から)安倍晋三首相、秋元司国交副大臣、中島敏海上保安庁長官=2018年5月20日、東京湾、巡視船「やしま」艦上(酒巻俊介撮影)
観閲する(右から)安倍晋三首相、秋元司国交副大臣、中島敏海上保安庁長官=2018年5月20日、東京湾、巡視船「やしま」艦上(酒巻俊介撮影)
 多くの国では領土をめぐって他国と血で血を洗う争いを行ってきた過去があるため、このように合理的理由もなく自らの主権を制限する行為は起こり得ません。それに比べると、良い悪いは別にして日本人は陸地の国境線というものを持たないためか、国境や領域に対する意識が低いように感じられます。いずれにしても、この件で一番問題なのは、この事実を多くの国民が知らないことです。