木村悠(元世界ライトフライ級王者)

 11月7日に行われたワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)決勝戦で、世界ボクシング協会(WBA)と国際ボクシング連盟(IBF)バンタム級王者の井上尚弥(大橋)が、WBAスーパー王者のノニト・ドネア(フィリピン)に勝利し、世界にその名を知らしめた。今回は、この偉業を成し遂げた井上の強さや潜在能力について分析したい。

 そもそも、井上が出場したWBSSは、階級最強を決めるトーナメントだ。現在のボクシングは、WBAとIBF、世界ボクシング評議会(WBC)、世界ボクシング機構(WBO)の主要4団体に各チャンピオンが存在しており、どの王者が一番強いかは明らかではない状態だった。

 そのため、今回のトーナメントでは、同じ階級の王者(4団体)と上位ランカーだけが参加でき、その中で「最強」を決める戦いとなっていた。まずは、決勝で死闘を見せた2人を振り返ってみよう。

 井上は昨年10月の初戦で、元WBA世界バンタム級スーパー王者のファン・カルロス・パヤノ(ドミニカ共和国)と対戦。1ラウンド(R)で井上の最初に出したワンツーでパヤノがダウン。そのまま立てず、わずか1分でKO勝ちとなった。

 続く準決勝は、5月にイギリスのグラスゴーで行われ、IBF世界バンタム級王者のエマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)と対戦した。無敗の王者相手に1Rは苦戦を強いられたが、続く2Rでは、井上の左フックが炸裂し、ロドリゲスがダウン。その後も2度のダウンを加え、KO勝利となった。

 このように、井上は世界クラスを相手に圧倒的な強さで決勝まで駒を進めた。そして、決勝の相手となったのは、フィリピン出身のノニト・ドネアで、フライ級からフェザー級まで、5階級を制覇した偉大な王者だ。「フィリピーノフラッシュ」(フィリピンの閃光)と呼ばれ、キャリア18年で45戦40勝(26KO)5敗(WBSS決勝前時点)の戦績を誇る。
WBSS決勝の第5ラウンド、井上尚弥に攻められるドネア(左)=2019年11月、さいたまスーパーアリーナ(山田俊介撮影)
WBSS決勝の第5ラウンド、井上尚弥に攻められるドネア(左)=2019年11月、さいたまスーパーアリーナ(山田俊介撮影)
 ドネアは、井上の2倍以上のキャリアと、軽量級ながら1発で試合を終わらせるパワーを備えたボクシング界のレジェンドだ。年齢は36歳となり、ベテランの域になるが、今回の試合のために階級を下げてトーナメントに出場してきた。

 ボクシング界のレジェンドが、わざわざ階級を下げてまで、参戦すること自体が驚きだ。1回戦は、WBA世界バンタム級スーパー王者のライアン・バーネット(北アイルランド)と対戦したが、4Rにバーネットが腰を痛めるアクシデントで試合を棄権して準決勝に。