だが、その一部の人たちの「ムラ社会」には真実が伝わらない。真実を拒否し、嘘であることでも「真実」として流通する現象だといえる。

 この現象をイタリア・IMTルッカ高等研究所のウォルター・クアトロチョッキ氏は「エコーチェンバー」(共鳴室)と名付けた。エコーチェンバーは、同質的で閉鎖的なネットのコミュニティーが生み出すという。

 今回の沢尻容疑者の事件が起きてまもなく、このエコーチェンバーから独特の音が鳴り響いてきた。沢尻容疑者逮捕の報道が、それまでマスコミの話題となっていた安倍首相主催の「桜を見る会」にかかわる疑惑報道を打ち消してしまう、という話だ。

 マスコミの報道を分析して、単に放送時間や取り上げられる回数の変化を指摘するだけなら、何の問題にもならない。だが今回、エコーチェンバーから聞こえてきたものは、「桜を見る会」の報道が安倍政権にとってまずいので、問題から国民の関心を移すために沢尻容疑者が逮捕された、というニュアンスを多く含んでいた。まさに陰謀論である。

 しかも、著名な識者の多くがこの陰謀論めいた話に参加していた。しかも、素朴に観察したところ、多くの人たちがこの陰謀論を信じているようでもある。まさにネット社会の分断をまざまざと示している。
「桜を見る会」を巡り、記者の質問に答える安倍首相=2019年11月15日、首相官邸
「桜を見る会」を巡り、記者の質問に答える安倍首相=2019年11月15日、首相官邸
 「桜を見る会」自体は、社会的評価が高かったり、社会貢献をした人たちを参集させるよりも後援会関係者の参加が目立つなど、最近の人数や経費の急増とともに見直すべき話だと思う。しかし、過去何十年と同じパターンで繰り返されてきた行事の運営を、安倍政権が何か違法な事態を引き起こしたと誘導する報道があまりにも多い。

 そもそも、何が違法に当たるのか、そこも分からない。法的な論点に関心のある人は、元弁護士の加藤成一氏の論考『桜を見る会「疑惑」の法的検討:買収罪は成立するか』が参考になるだろう。